
南アフリカ出身、現在ロスアンジェルス在住の映画プロデューサー、アントン・アーネストさんとの出会いは本当に奇跡的な偶然でした。こちらがレズビアン・ゲイ映画祭「OUTFEST」の取材のためLAに滞在していた時、OUTFESTのメイン会場近くで宿を探そうと、部屋の貸し借りで話題のネットサービス「Airbnb」を利用した時、借りた部屋のオーナーがアントンさんでした。詳細は以下の記事をどうぞ。
【2015LA滞在記番外編1】Airbnbを使って部屋を探すの巻
【2015LA滞在記番外編2】オーナーの正体は!の巻
【2015LA滞在記番外編3】南アフリカのキューティー映画を見るの巻
アントンさんとは1週間ほど部屋を借りていた間、お互い時間が合えばキューティー映画の話を中心に、映画業界やビジネスのことを話していました。
リビングにある大型液晶TVで、アントンさんの映画や、AppleのiTunesムービー、9月に日本上陸予定の米最大の配信サービスNetflix、日本でもお馴染みのHuluなど自由に見せてもらいました。おかげでcueが以前からプッシュしている『キルスティン・ダンストの 大統領に気をつけろ!』『美少女探偵ナンシー・ドリュー』などのアンドリュー・フレミング監督の新作、日本未公開作品『Barefoot』を見ることが出来ました。とっても素晴らしいキューティー映画でした。
『Barefoot』情報
せっかくですからアントンさんに改めてインタビューを申し込みました。帰国前日に行ったインタビューです。南アフリカのキューティー映画、そして南アフリカ映画界を知る上でとても貴重なインタビューとなりました。
アントン・アーネスト Anton Ernst

まずはアントンさんのプロフィールを教えてください。
私はこれまで色々な映画、アクションからドラマ、SF、そしてキューティー映画まで製作してきたプロデューサーです。
私自身は南アフリカ出身ですが、今はロサンゼルスで仕事をしています。
なぜアメリカに来て活動しようと思ったのですか?
単純に市場規模ですね。南アフリカの興行収益は世界の興行収益でも0.5%くらいにしかならない非常に小さいマーケットです。やはりプロデューサーとしても一番市場規模の大きいアメリカでやりたいと思いました。
アメリカ進出は大変ですか?
大変といえば大変ですが、ここ10年、非常に素晴らしい人たちと一緒に映画製作をしてきたので、いいタイミングでアメリカに来たと思っています。
日本の映画ファンは南アフリカ映画についてあまり情報を持っていないと思います。南アフリカの映画について教えて下さい。
南アフリカの映画は1994年のアパルトヘイト撤廃の前後で異なります。
1994年以前の映画は白人中心の映画です。
1994年後の映画はアパルトヘイト時代の社会情勢についてや、人々が当時どう感じていたかなど、時代を検証するシリアスなテーマを持つ作品が多く作られました。
しかし、その後はエンタテインメント性に富んだ作品が多く作られるようになり、より多くの人が普通に映画を楽しむ状況になりました。近年では母国語、民族語を話すアフリカ人が主演の映画が多く作られるようになっています。
南アフリカといえば、シャーリーズ・セロンを思い浮かべます。彼女は非常に苦労して ((南アフリカでは父親に虐待され彼女を守ろうとした母親が射殺。さらにバレエダンサーを目指してニューヨークに渡るが怪我で挫折。ロサンジェルスで女優を目指すが最初は全く仕事がなかった。))今の地位につきました。彼女は南アフリカではどう思われていますか?
彼女は南アフリカではとっても有名で人気があり、アイドルのように見られています。南アフリカの俳優はみんな彼女に憧れていますね。
今後、南アフリカから第2のシャーリーズ・セロンになるような女優はいますか?
私がプロデュースした『サファリ(2013) ((アメリカ人のツアー客がサファリで動物に襲われる様子をカメラで撮影した…という『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』タイプのモキュメント映画。日本でも東京の映画イベントで上映され、現在DVD発売中です。))』に出演していたリー=アン・サマーズは期待している女優の1人ですね。
南アフリカではキューティー映画は人気がありますか?
はい、とても人気がありますよ。アメリカから入ってくるキューティー映画はもちろんのこと、南アフリカで作られたキューティー映画も非常に人気があります。例えば…
Pad na jou hart (2014)
Semi-Soet (2012)
Liefling (Liefling die Movie) (2010)
これらの南アフリカ映画はハリウッド映画よりヒットしました。
アントンさんのプロデュースした映画から3作品、見せてもらいました。それらの映画についてプロデューサーの立場から作品紹介してもらえますか?
(※3作品についてはこちらに詳細な記事を書いています)【2015LA滞在記番外編3】南アフリカのキューティー映画を見るの巻
まずこの3作品に関しては、ビジネス的には世界でどういう反応があるかを調べるために作りました。
Ek Lief Jou (2011)
ビジネス的には南アフリカの言葉に似ているベルギーから女優を呼んできて、ベルギーでの上映も念頭に入れて製作しました。国内だけではなくより大きな市場を狙いました。
しかし文化の違いを1つにまとめようとすると、色々と無理が出てしまいます。現場的にも異なる文化のため混乱を起こしてしまいました。その結果、観客に伝わりにくいお話になってしまいました。
Stilte (2012)
この映画は『Ek Lief Jou』より、もっとドラマチックなものを作りたいと思って製作しました。
内容的にはシリアスですが、テーマ性をもった作品になったと思います。
Little One (2013)
この映画が現時点では私にとって一番誇りとなる作品です。2013年のアカデミー賞ノミネート作品になりました。
内容的に非常にシリアスな問題を扱いましたが、どんな環境であっても前向きに生きていこうというメッセージを含んだ作品になっています。
いずれの作品も女性向けと捉えていい映画だと思います。それぞれの作品で、アメリカ映画などと異なる南アフリカらしいところはどこでしょう?
『Ek Lief Jou』はアメリカのキューティー映画に近いテイストの作品だと思います。「有名歌手がまさか自分と恋に落ちるなんて!」というシンデレラ・ストーリーですし。
『Stilte』をキューティー映画の観点で語ると、女性とはメディアなどで語られるものよりもっと強い存在です。ヒロインが逆境の中でも強く生きていくというところに、観客の女性たちも共感してくれたと思っています。
キューティー映画を作る場合、資金集めはどうしているんですか?
資金集めの方法は諸外国とほぼ同じだと思います。個人・企業などの融資と政府からの援助金です。政府の援助金は1ランドにつき35%戻ってきます。最大600万ランドまで援助を受けることが出来るのですが、これが自国で映画を製作する際は大きな助けになっています。
プロモーションでは女性誌とタイアップなどを行ったりもします。
過去に自国のファッション・メーカーから劇中で服を着せる代わりに資金援助する映画もあったのですが、そういった映画が大失敗に終わってしまったので、今ではその手の資金集めはもう見られなくなりました。
だから今では資金集めのメインは資本家や企業からの融資と政府援助になっています。
プロデューサーとして、アントンさんがキューティー映画を企画する際、気をつけることは何ですか?
1つ目に、お話やテーマが女性客が観た時にどれだけ共感してもらえるかというところです。
2つ目に、ヒロイン像とそれを演じる女優に、女性が自らを投影出来るかどうか。
3つ目に、女性観客が映画を楽しめて、友達に薦められるかどうかです。
アントンさんは男性ですよね?女性の気持ちをどうやって調べますか?
良い質問です。『ハート・オブ・ウーマン』のメル・ギブソン ((2000年公開。メル・ギブソン演じる広告代理店勤務の主人公が、ある日、女性の心の声が聞こえるようになるというお話。共演はヘレン・ハント。監督はキューティー映画の巨匠ナンシー・マイヤーズ。))にならないといけませんね(笑)
実際は映画業界で知り合いの女性スタッフたちに聞いてみたりします。でも私は男性で女性の気持ちは一生分かりませんから、結局のところは映画を作って女性客の反応を見て…とトライ&エラーを繰り返していくしかしょうがないですね。
今度はアントンさんのパーソナルについて質問します。プロデューサーになったきっかけは?
小さいころ、おばあちゃんと一緒にラジオでソープオペラなどを聞いていて、何かしらクリエイティブなメディアの仕事に関わりたいと思いました。私は『燃えよドラゴン』をVHSを観たのが映画初体験なのですが、それで映画業界に関わりたいと思うようになりました。
プレトリア大学で経済学を学び、その後南アフリカの映画会社に入社して、そこのファイナンス部門に配属されました。その後ロンドンの映画会社に転職してプロデューサーとしての基礎を学びました。
若い頃、どういう映画を観ていましたか?
色々な映画を観てきましたが、キューティー映画だと80年代のジョン・ヒューズ作品が好きで、「次はどういう作品が来るんだろう?」といつも楽しみにしていましたね。
その頃の映画は字幕ですか?
はい。80年代、テレビは吹替えが多かったですが、映画は字幕でした。
アントンさんが一番好きなキューティー映画は何ですか?
パトリック・デンプシー主演の『キャント・バイ・ミー・ラブ』ですね。
あの時代の青春映画で、特に初恋というテーマが大好きなので。
もしアントンさんが自由にお金を使えてキューティー映画を作るとしたら、どういう作品を作りますか?
お金を自由に?!そりゃ逆に困ったな(笑)
SF系っぽいキューティー映画、例えば未来を舞台にしたものとかを作りたいですね。
最近のキューティー映画は、あまり変わった世界観でお話が展開するものがありませんから、そういうものを作ってみたいです。
キューティー映画でキャスティングしてみたいハリウッド女優は誰ですか?
ケイト・ハドソンですね。
アントンさんの今後の活動予定を教えて下さい。
ちょうどオルガ・キュリレンコ主演、モーガン・フリーマン出演のヒロイン・アクション映画『Momentum』の製作が終わったところです。
そして次にSF系でアクションものやキューティー映画などの企画を進めています。
今回、あなたと会って色々と話をして ((アントンさんとは日本での海外キューティー映画の現状や、日本の映画業界、キューティー映画の企画、アニメやコミックなど色々と語り合いました。))、日本でも映画製作をしてみたいと思うようになりましたよ。本当にいい出会いでした。ありがとう。