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『アンダー・ハー・マウス』エイプリル・マレン監督インタビュー

『アンダー・ハー・マウス』エイプリル・マレン監督インタビュー
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セックスシーンについてお聞きます。とてもハードな描写でした。興味深かったのはダラスがペニスバンドを使用していたことです。ペニスバンドを使用すると、セックスシーンのビジュアルが男女の行為と変わりません。そこは何か意図があったのですか?

これは相当意識して、あえて使いました。
女性同士のセックスって”そういうもの”なんです。今まで映画の中で女性同士の恋愛を描いているものの多くは、男性のファンタジーが映像化されていました。

たしかにペニスバンドのシーンを観た時に引いた男性もいます。それは女性同士の美しさが表現されていないと感じたからかもしれないし、レズビアンのセックスシーンとしてそそるものがないと感じたかもしれません。

でも、この映画ではナチュラルに「これが彼女たちのリアルなんだ」「ダラスの性生活のリアルはこれなんだ」ということで、あえてファンタジーではないリアリティのある描写を行いました。大げさかもしれないけど、映画において革命的な選択だったと自負しています。

一方で、ジャスミンの婚約者のライルというキャラクターが、2人のセックスシーンを目撃してしまい、困惑してその場から立ち去ります。あの行動が男性キャラクターとしてステレオタイプに見えました。

ええ、おっしゃっるとおり、あえてステレオタイプとして描いています。あくまでも2人の女の子の話に焦点を絞りたかったので、ライルの描写に重心を置かないでいますね。

あそこ ((ジャスミンの部屋のバスルームでペニスバンドを付け立ちバックのセックス中のところを、ジャスミンの婚約者のライルが出張から戻り目撃する。ライルはショックで部屋を飛び出し、ジャスミンはあわててライルを追っかける、というシーン。))で描きたかったのは、1人ぼっちになってしまったダラスの方なんです。あの瞬間、ジャスミンはおそらくは自分の未来である婚約者を追いかけてしまった。そして取り残されたダラス。この2人の対比を見せたかったんです。

照明とカメラのコンビネーション、特に赤と青など色のぶつけ合いがとてもよかったのですが、これは監督の妹さんである美術のフェイ・マレンか、カメラのマヤ・バンコヴィック、もしくは監督の意図ですか?

そうですね。みんなで話し合いながら作っていきました。ロケハンの段階から、かなり画面設計はこだわって準備していましたね。

色調もそれぞれキャラクターごとに設定されているし、照明も、ジャスミンはどこか安心感のある雰囲気で自然光を多用し、一方でダラスは雑多な感じを出したかったので、ネオンとか人工的なものを使って色々な色を出しています。

2カットほど、興味深いカットがありました。
1つが映画の後半、ジャスミンがタクシーに乗っているカットです。カメラは車内のジャスミンの横顔をずっとアップで捉えています。車からジャスミンが降りるのですが、カメラもそのまま窓を出て車の屋根の上にあるジャスミンの横顔を捉え続けています。普通なら「車内のジャスミン」「タクシーを出たジャスミン」でカットを分けると思うのですが、1カットのままでした。あそこはどうやって撮ったのでしょう?

キャラクターに寄り添ったカメラワークが好きなんです。あそこはジャスミンがタクシーのドアを開けて出た時に、車内にいたカメラマンから外にいたスタッフがカメラを受け取って、そのまま撮っています。インディペンデント映画ならではの技ね(笑)

もう1つのカットは、ダラスが車を避けながら道を渡り、ストリップ劇場に入って店内を歩く様子を1カットの長回しで撮ったものです。あのカットはリハーサルも考えると相当手間がかかったと思うのですが。

この映画の予算で撮るにはけっこう大変なシーンでしたね。
けど、リハーサル90分、本番90分、合計3時間で撮ったんですよ。店内の撮影で1時間、外での撮影で30分。2テイクで撮りました。

えっ!そんな短時間で?しかもたったの2テイクですか?それは凄い!

3年後の『ゴジラ』は私が監督よ!(笑)

女優、監督を目指すきっかけの作品ってありましたか?

女優業、監督業もなるべくしてなった、という感じなんです。元々そういうものを渇望していたというか、何か作品を作って人の気持ちを揺さぶりたい、人々を感動させるようなものを作りたいというのが元々ありました。
映画オタク的なところはなくて、ただ日々を楽しんでましたね。プロになってからは色々映画を見たり、勉強したりしましたが。

どんなキューティー映画が好きですか?

キューティー映画!?えーっと…『クルーレス』が大好きです。それと…『リトル・マーメイド』!(笑)

意外なところが来ましたね(笑)

あとは…何があっただろう…『プリティ・ウーマン』、バズ・ラーマンの『ロミオとジュリエット』、『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』はおもしろかったわ…「ウエディング・シンガー」も楽しかった。それと『アニーホール』でしょ、『メリーに首ったけ』でしょ…
あなたは何が好き?

『フォーチュン・クッキー』ですね。

リンジー・ローハンのね!(即答)私も大好き!そうそう、『キュティ・ブロンド』もあったわ。もちろん大好きよ!

もしキューティー映画を撮るとしたら、どういうのを撮りますか??

ワイルドなものが撮りたいわ。女の子たちがはっちゃけちゃうような。自分は4人姉妹なんだけど、4人姉妹が世界を一緒に旅してるんだけど、みんなバラバラになっちゃう、っていうのコメディはどう?(笑)

おわりに

エイプリル・マレン監督は可愛い声で話す、とても明るい人でした。

今回のインタビューではあえて、主演のエリカ・リンダーについて聞きませんでした。他のインタビューで聞かれているであろうということ、レズビアン映画を撮った職人監督としてのエイプリル・マレン監督の考えを知りたかったこと、「女性スタッフだけで制作した」ことをアピールしている、この手の映画では見過ごされがちな技術的なことを聞きかったことがその理由です。
『アンダー・ハー・マウス』でのカメラと照明のコンビネーション、撮影のテクニックは特筆すべきものがあります。ぜひ注目してください。

当サイトのインタビューでは必ず「どんなキューティー映画が好きですか?」という質問をします。みなさん答えに詰まって、考えに考えてやっとこさ答えを絞り出してくれる、ということが多いです。

エイプリル・マレン監督の場合も、最初は「う〜ん」と答えに悩んでいたようすでした。しかし、それは作品が思いつかなかったのではなく、どれを出せばいいのだろう?というもので、一度出始めると、後はもうキューティー映画のタイトルが出てくる出てくる(笑)

監督は、周りにいた宣伝や配給の日本人スタッフたちに「あなたは何が好き?」と聞いたりもして、いつしかみんなでキューティー映画談義となっていました。楽しかったです(笑)

ちなみに監督に「あなたは何が好き?」と尋ねられた時に答えた『フォーチュン・クッキー』。以前『タンジェリン』のショーン・ベイカー監督のときも同じ質問をされ同じ答えをしたのですが、その時はイマイチ反応が悪かったです。

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それに比べて、エイプリル・マレン監督は答えを聞くや否や「リンジー・ローハンのね!」と即答でした。その瞬間、この人は信用できる!と強く確信しました(笑)

アンダー・ハー・マウス

ストーリー

大工として働くダラス(エリカ・リンダー)は、自分の居場所を探すかのように毎晩違う女と関係を持つ日々を過ごしている。ある日ダラスは、仕事現場の近くでいつも見かけていた、ファッションエディターのジャスミン(ナタリー・クリル)と深夜のレズビアンバーで出会う。婚約中ということもありダラスの誘いにツレないジャスミンだったが、本能が求める愛を拒むことはできず、2人は結ばれる…

スタッフ&キャスト

監督:エイプリル・マレン
脚本:ステファニー・ファブリッツィ
出演:エリカ・リンダー、ナタリー・クリル、セバスチャン・ピゴット
配給:シンカ/提供:シンカ、バップ
2016年/カナダ/英語/92分/R18+/原題:Below Her Mouth
公式HP:underhermouth.jp
10月7日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋他にて全国順次公開

3エイプリル・マレン


2007年、カルト的人気を博したコメディ映画『Rock, Paper, Scissors:The Way of the Tosser(原題)』で 監督デビュー。2012年に公開された『Dead Before Dawn 3D(原題)』では、若手女性監督として初めて3Dアクション映画を手がけた功績が称えられてThe Perron Crystal Award を受賞。15年に公開された『アウト・オブ・コントロール』(未)はアメリカをはじめ、22の地域で公開された。最新作は、ラテンアメリカ系ギャングのラブストーリーの『Badsville(原題)』(17)が待機中。また、女優としても映画『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(06)、テレビ「GoodGod(原題)」(12~)シリーズなど、数多くの作品に出演している。

この作品に参加された経緯を教えてください。

プロデューサーが、前作『アウト・オブ・コントロール』(2015)を見て、気に入ってくれたみたいです。
『アウト・オブ・コントロール』はアクション映画なんだけど、その中に恋愛の描写があって、それが非常に生々しく描けていると思ったようで、それがこの作品にピッタリだと。それで呼んでくれました。

あなたがこれまで監督した作品は、いずれもコメディやサスペンスばかりでしたよね?
(この質問の途中で監督が大笑いしながら「What Happen!!(どうしちゃったの私!)」とツッコミが)
確かに『アウト・オブ・コントロール』を観た時に、恋愛要素はありましたが、女性キャラクターの描写はアクションものということでハードでした。でも今回とは明らかにタッチが異なります。その辺はどうでしたか?

確かに全く違うものを描いていますね。『アウト・オブ・コントロール』では女性の復讐劇を描いていました。でも今回は純粋でストレートなドラマで、リアルな恋愛を2人のキャラクターで描いていくわけですけど、かなり毛色の違う映画にはなっていますね。

監督としてはどちらのタイプが撮りやすいですか?

それぞれに難しさがありますね…。

ところで『アンダー・ハー・マウス』と『アウト・オブ・コントロール』を比べる質問って、これまでなかったの(笑)。だからとても面白いわ。ありがとう!

よく考えたらどちらも似ているところがあるかもしれません。
例えば、両作品共、超リアルなキャラクターの心情を描いています。人が過激な変化を遂げる瞬間を描いていると思うんです。これは監督として、こだわりを持っている点かもしれないわ。

今回、制作スタッフは全員女性で編成されていました。監督としては性別でスタッフをまとめるということに意味はありましたか?

この作品には必要だったかな、と思います。
とにかく今までと違うものを描きたかった。女性の愛や欲望について、女性の視点で徹底的に表現したかったので、現場だけではなく、プリ・プロダクション ((撮影に入るまでの準備期間のこと。脚本開発やロケハンなどが含まれる。))からポスト・プロダクション ((撮影後の作業のこと。編集や音響、効果音、アフレコ入れなどが含まれる。))に至るまで、どの部分も全部女性スタッフを起用しているんですよ。

でも他の作品で同じことをやるべきかというと、それはまた違う話だと思います。だから、何かしら政治的な動機でやったのではないですね。

制作の技術的な部分で考えた時に、女性だけの編成と男性が交じった編成では何か違うのかな?と思ったんですよ。

監督としては変わらなかったですね。女性だけだと各部門ごとに固まってしまいがちなところを、部門間でコミュニケーションを密に取ったりして、とてもフレキシブルにしたので、垣根が取り払われるという感じの現場ではありましたね。