
キューティー映画は原点回帰へ
近年のアメリカ産キューティー映画は青春映画のほぼ全てに「ジョン・ヒューズ」の影が見え隠れしています。無縁だと思われたスティーブン・スピルバーグ監督の『レディ・プレイヤー1』にまでジョン・ヒューズ作品が重要なアイテムとして使用されているのには驚きましたが、この傾向は今後も続くと思われます。ただ以前のようなジョン・ヒューズ作品の精神性ではなく、単に描写を真似たものが増えているので「ジョン・ヒューズ・ブーム」が終わった後、青春系キューティー映画がどうなるのかも気がかりです。
キューティー映画は去年、MeToo問題や多様性を認める社会運動など、社会的な動きを反映した重くシリアスな…コメディであってもシニカルなものが多かったのですが、今年は原点回帰とも言えるロマンチックで楽しい王道作品が多く公開されました。
先に書いたNetflixによるディズニーを意識してのユーザー囲い込みのための増加というのがありますが、もう一つはジョン・ヒューズ作品に限らず『25年目のキス』や『キューティ・ブロンド』『ミーン・ガールズ』『クルーレス』など過去の名作キューティー映画が「クラシック」として作り手の共通認識になったことがあると考えています。
キューティー映画は近年、これまで多かった男性のベテラン職人監督の作品から女性監督による作品が増えています。女性監督作品は自己主張の強い作家性重視の演出が多かったのが、職人的な演出が増えました。また脚本は過去のキューティー映画を上手く消化して新しい形にして提示しているものが増えています。作り手側の過去のキューティー映画への共通認識によって、いい意味でプログラムピクチャー的な安定した完成度を持つ作品が増えました。
2019年のバレンタインデーにはレベル・ウィルソン主演のキューティー映画をパロディ化した『Isn’t It Romantic?』が公開されます。
過去のキューティー映画をパロディにしたアリアナ・グランテのMVも大きな話題となりましたね。

そんな中、キューティー映画の金字塔『キューティ・ブロンド』の第3弾がリース・ウィザースプーン主演で製作されることが発表されました。公開は2020年2月14日ですが、今年はその進捗状況がニュースを賑わしそうです。
『Dumplin’』にみる配信作品の問題点
キューティー映画は配信サービスの要となっていると書きましたが、そうなると意外な問題が出てきます。今年12月7日から全世界同時配信されたNetflixオリジナル映画『Dumplin’』でその問題を考えさせられました。
『Dumplin’』はジェニファー・アニストンと『パティ・ケイク$』で好演したダニエル・マクドナルドが母娘役で共演、「Dumplin’(お団子の意味)」と元ミスコンの母親に愛称として呼ばれているデブっちょな娘がミスコンに挑戦する…という人気YA小説原作の映像化です。監督は『あなたは私のムコになる』『幸せになるための27のドレス』『ステップ・アップ』などキューティー映画のヒット作を出しているアン・フレッチャー。
劇中のヒロインがドリー・パートンのファンという設定で、主題歌と音楽をドリー・パートンが担当しています。そのため『Dumplin’』は映画賞の候補資格を得るために全米で小規模な劇場公開が行われました(アメリカの映画賞には規定があって「映画館で上映された作品」でないといけないため。)
その効果もあって、ドリー・パートンが歌う主題歌「Girl in the Movies」は各映画賞にノミネートされています。
そんな話題のキューティー映画が日本のNetflixでは12月7日に配信されませんでした。事前にNetflixから配信予告が公式に発表されていたにも関わらず。Netflix公式が偽情報を発表していて訂正すらしなかったのです。結果的に現時点で『Dumplin’』は日本では存在しない作品となっています。
これまではこういう場合、いち早く見たい人は公開後に発売される海外版ソフトを購入するなりして対応していました。最近では公開後1〜2ヶ月でソフトになりますし。
しかし配信中心の作品の場合はソフト化がされません。何より今回のように配信されず、配信元が正しい情報公開をしてくれない場合、配信を待てばいいのか?配信ではなく映画館で上映されるのか?と、どうしたらその作品が見れるのか皆目見当がつかないことがわかりました。これはこれまでにないパターンでした。
さらにこのことから、現在の日本の映画配給についても考えさせられました。
『Dumplin’』はジェニファー・アニストンが出演していることから、たぶん日本では劇場公開されると思っています。勝手な想像なので間違っている可能性もありますが、ここでは劇場公開されると仮定して話を進めます。
で、劇場公開されるということは大手シネコン系での全国公開か、東京から順次小規模に全国公開していくかのいずれかです。いずれにせよ『Dumplin’』だと小規模公開でしょう。全国どこの映画館でも観れるというわけではなく、主要都市の限られた映画館での公開となります。
観客は特定の映画館が決めた上映時間に合わせて観に行くことになります。当然移動に要する時間とお金もかけて。
自分は東京と京都、大阪の中小規模映画館しか知りませんが、高低差のない座席や変なスクリーン位置、映写ミス、外からの音漏れなど、鑑賞環境が良くないところが多く、楽しみにしていた映画を鑑賞環境のせいで台無しにされることがよくあります。
映画館での公開は、このように配信で見るよりはるかに観る側に様々な負担をかけます。しかも東京以外の土地だと日本公開から数週間、数カ月後に観ることになります。
で、ですね、このサイトで書くのもおかしな話ですが、そこまでしてキューティー映画を見たいとは思わないのです。
キューティー映画は元々「映画は映画館で!No Movie No Life!」みたいなシネフィルのみなさん(かなりの偏見に基づいて「シネフィル」を使用(笑))とは無縁のジャンル映画のはずです。むしろ映画をあまり見ない人がさっと見て楽しんで映画館を出ていくタイプのものです。求められるのは利便性なのです。だからこそ、配信のメインコンテンツとして重宝されています。
この問題は世界別の配給権など色々なビジネス的な取り決めが関わる問題なので、解決方法がないのも承知していますし、大半が個人的な愚痴ですが、ネットによって公開時差をなくし便利に思われた配信サービスが、何かでつまづくと、とたんに不便になってしまう、という思わぬ落とし穴があるというのを『Dumplin’』の件で気付かされました。