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巧みな演出・脚本で理系女子の日常を描く『1001グラム』

巧みな演出・脚本で理系女子の日常を描く『1001グラム』
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1001-gram_00マリエは、測量研究所に勤める女性研究員である。毎日愛車で研究所に通い、計測や測量を行う。規則正しい毎日が続く中、パリで行われる「1キロ」の重量に関する学会が迫ってくる。研究所が保管している国の基準となる大切な1キロの重りを、パリに運ぶことになる。特別な容器に厳重に保管された重りを持って、マリエはパリに向かう。各国から同業者が集まる学会の場で、マリエに新たな出会いが待ち構えていた…。
内気なヒロインが様々な決断を迫られる中で、心の殻を少しずつ破っていく様子を暖かいタッチで描く人間ドラマ。科学と人間の行動の間にあるものに魅了されていると語るベント・ハーメル監督によれば、『キッチン・ストーリー』(03)にも底流していた人間の行動のおかしみを、さらに発展させようとしたのが本作である。一粒のホコリも許されないような科学的測量の世界を象徴するごとく、画面には北欧デザインのように美しく端正な雰囲気が漂い、そこに緊張した人間の感情をほぐすような、ユーモラスで温かい空気が吹き込まれる。まさに完全なるベント・ハーメルの世界である。監督が初めて女性を主役に据えた本作のヒロインを演じるアーネ・ダール・トルプは、ノルウェーきっての人気実力派女優のひとり。(東京国際映画祭より)


監督・脚本:ベント・ハーメル
出演:アーネ・ダール・トルプ、ローラン・ストッカー、ステイン・ウィングほか
原題:1001 Gram、公開年:2014年、製作国:ノルウェー/ドイツ/フランス

ヒロイン、マリエが乗っている電気自動車がすごくかわいいです。ノルウェーのBuddyという電気自動車メーカーのものです。
1001-gram_01この小ささ!縦向けに駐車するんですよ。かわいい
そしてこの電気自動車は単にノルウェーらしさを出すためではなく、劇中で彼女の人生を変えるツールとしてちゃんと使われています。その辺は実にうまいと思いました。

日常を淡々と描いていきます。きれいな澄んだ画が静かな進行に合っていて非常に心地よいです。淡々としていながらも、その描写の1つ1つはどれも興味深く、全く飽きることがありません。

髪を結い上げ神経質そうで口数も少ないマリエは、勤務先から帰ると小さなかわいい電気自動車を駐車場に止め、充電して家に入って一杯飲んだら就寝して…と淡々と静かに暮らす日常を描写します。
マリエの性格だからでしょうか?物があまりありません。その家は大きくてオシャレなのにマリエは居心地が悪そうに隅っこに佇んでいます。ベッドもツインサイズなのに、シングルの布団を使い、きっちり片側だけ使っています。

時々、マリエの電気自動車の駐車場に大きな車が止っています。その車にはイスなど家具が載っています。マリエは黙ってその車が出て行くのを電気自動車の中で待ち、車が荒々しく出て行くと静かにいつもの駐車場に電気自動車を止めます。

こういった描写の数々は、理系女子ならではのきっちりした性格を示すための描写かと思いきや、映画の中盤、何気なく出てくる1つの台詞で、これらの描写の意味が全て判明します。脚本や構成が実に巧みです。
そして、この巧みさは、我々には馴染みのないマイナーな科学の世界をとても分かりやすく見せてくれるのにも役立ちます。

マリエが勤める研究所ではマリエの父が国際キログラム原器の取扱責任者でしたが、病で倒れてしまいます。
そこで、マリエが父の代役で、ノルウェーの「国際キログラム原器」を国際度量衡局があるフランスに運ぶことになります。

「国際キログラム原器」とは重さの単位を決める国際基準に相当するものです。国際標準の単位は7種類あり、それを「SI基本単位」といいますが、その中で重さだけが唯一人工物、「国際キログラム原器」に依存しています。
そこで2011年に開催された国際度量衡総会でこの原器基準を見直し、新しい定義をすることが決議されました。この映画は2012年という設定で、この新しい定義が出た直後ということになります。

何やら科学の専門的な難しい話のように思われますが(実際そうなのですが)、映画ではこの辺りを実に分かりやすく、静かながらユーモラスに描いていきますのでご安心を。逆にこの映画を見れば、難しく感じる科学的知識が簡単に手に入ります。

そうして馴染みのない科学の世界を写し取りつつ、映画はマリエが1人の男性と「電気自動車がきっかけで」出会いゆっくり愛を育んでいく姿を描いてきます。しかしこの辺も、出会ってすぐ恋愛に話は行かず、あくまでもマリエの日常の変化を中心に描いていったのは映画の主題が逸れず見事でした。

この映画はマリエの日常を淡々と追いつつ、マリエが周囲の変化をゆっくり受け入れ、やがて自ら変化することを選択する物語です。
それが最後にすごく自然な形でキューティー映画として帰結する形になっています。

最後に交わされるユーモアあふれる台詞が実に小粋でした。

マリエを演じたアーネ・ダール・トルプは現在39歳。抑制された演技ながら、実在感のある魅力的なヒロイン像を作り出していました。
写真など静止画では無表情で怖い顔立ちに思えるのですが、動くと全くそうは見えません。その辺の演技力は、ほとんど台詞がない国際度量衡局関連のシーンや、後半マリエが変化していく様を表情の変化で見せていったりするところで存分に発揮されています。

本作は来年度のアカデミー賞外国語映画賞部門のノルウェー代表作品に選ばれています。