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『サード・パーソン』ポール・ハギス監督インタビュー

『サード・パーソン』ポール・ハギス監督インタビュー
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paul-haggis-interview_00ポール・ハギス氏といえば、まず初映画脚本作『ミリオンダラー・ベイビー』でアカデミー賞脚本賞ノミネート、さらに初監督作品『クラッシュ』でアカデミー賞作品賞、脚本賞受賞。その後『父親たちの星条旗』と『硫黄島からの手紙』、『007 カジノ・ロワイヤル』と『007 慰めの報酬』の連作を脚本、監督2作目となるラッセル・クロウ主演の妻を脱走させる夫を描く『スリーデイズ』と、優れた脚本家であり、監督である「映画の秀才」というイメージです。

そのポール・ハギス氏の監督・脚本3作目、『サード・パーソン』は3つの都市と3組のカップルの話が同時進行していく物語です。
[col_full] [col_third] Third_Person_poster [/col_third] パリ。最新小説を書き終えるために、ホテルのスイートルームにこもって仕事をしている、ピューリッツァー賞受賞作家のマイケル(リーアム・ニーソン)。妻エイレンとは別居して、野心的な作家志望のアンナ(オリヴィア・ワイルド)と不倫関係にあるが、アンナにも秘密の恋人がいる。

ローマ。いかがわしいアメリカ人ビジネスマンのスコット(エイドリアン・ブロディ)は、偶然入ったバーで美しいエキゾチックな女性に一瞬にして目を奪われる。彼女が娘と久しぶりに再会しようとしていることを知る。そして密輸業者から娘を取り戻すためのお金を盗まれたと聞いたスコットは、彼女を助けたい衝動に駆られる。

ニューヨーク。昼メロに出演していた元女優のジュリア(ミラ・クニス)は、6歳の息子をめぐって有名な現代アーティストである元夫のリック(ジェームズ・フランコ)と親権争いの真っ最中だった。経済的支援を失い、膨大な裁判費用を抱えたジュリアは高級ホテルでメイドとして働きはじめる。ジュリアの弁護士からは裁判所の心証を変えるため、精神科医の鑑定を受けることをすすめられているが… [/col_full]
まずはパリ。ホテルに滞在し仕事をしているスランプ中のベテラン作家(リーアム・ニーソン)と不倫中の若手作家(オリヴィア・ワイルド)
次にローマ。下っ端商業スパイのアメリカ人(エイドリアン・ブロディ)とセクシーで謎めいたロマ族の女(モラン・アティアス)
そしてニューヨーク。離婚し子供を奪われ、どん底生活の女(ミラ・クニス)と親権争い中の元夫でアーティスト(ジェームズ・フランコ)

これらのドラマが同時並行で描かれていきます。それぞれのドラマは淡々と状況を描いているように見せて、徐々にサスペンス的な色合いが濃くなっていきます。キャラクターたちのシンプルな台詞のやりとりに複雑なプロットが折り重なり、それぞれの物語は意外な結末へ進んでいきます。

キューティー映画的に特に注目したいのは、パリのリアム・ニーソンとオリヴィア・ワイルドの不倫カップルによる恋の駆け引きです。
作品冒頭、リアム演じる作家が滞在しているホテルの部屋に初めて入って来た時の若手作家役オリヴィアとの会話が特に素晴らしかったです。
2人は会うやいなや、2人はつれない言葉をぶつけ合います。互いに駆け引きをして遊んでいるわけです。その会話や展開が上品かつセクシーなキューティー映画に見えました。

また、出てくるキャラクターたちが一癖あるわりに親近感、リアリティがあって魅力的です。
ローマ編のロマ族の女役、モラン・アティアスが艶かしく、そしてたくましくて実に魅力的なキャラクターです。NY編のミラ・クニスは何をやっても上手く行かず、それを説明しても他人から嘘つき呼ばわりされる役。そういう人っていますよね。そして離婚した夫にはジェームズ・フランコが『スプリング・ブレイカーズ』の時とは全く異なる誠実なキャラクターを演じています。いや、こちらが元々の彼のイメージですか(笑)
さらに『コヨーテ・アグリー』『ジェイン・オースティンの読書会』のマリア・ベロやキム・ベイシンガーなども出演しています。

映画のテイストは純粋なキューティー映画ではないのですが、劇中に散りばめられたキューティー映画的なシーンや小粋な台詞の応酬はさすが名脚本家でもあるポール・ハギス。そこで今回、メインの3人の女優たちを中心に、作劇についてなど色々聞いてみました。

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ポール・ハギス

[col_third]paul-haggis-interview__profile [/col_third] 1953年、カナダ、オンタリオ州生まれ。脚本を担当した『ミリオンダラー・ベイビー』(04/クリント・イーストウッド監督)と自身が監督も務めた『クラッシュ』(04)が2年連続で米アカデミー賞Ⓡ最優秀作品賞を受賞し、2006年に2つの同賞最優秀作品賞受賞作を手がけた史上初の脚本家となった。
『クラッシュ』では、同賞最優秀脚本賞も受賞し、さらに監督賞を含む4部門にノミネートされた。加えて同作は、インディペンデント・スピリット賞、全米映画俳優組合(SAG)賞Ⓡ、英アカデミー(BAFTA)賞など数多くの賞を受賞した。
06年、脚本を手がけた作品にクリント・イーストウッド監督の2部作『父親たちの星条旗』および『硫黄島からの手紙』がある。後者の脚本では、3度目となる米アカデミー賞Ⓡノミネートを獲得した。また同年、『007/カジノ・ロワイヤル』の共同脚本も担当し、「ジェームズ・ボンド」スパイシリーズを甦らせたとして称賛を浴びた。テレビシリーズ「crash クラッシュ」シーズン1、2では 製作総指揮をつとめた。 [/col_full]

演出や脚本について

今回の映画の作るきっかけは、モニカ役のモラン・アティアスに、愛と人間関係について複数のプロットを持つ映画を書くよう薦められたからだそうですが?

モラン(アティアス)はちょうど女優として苦労している時期に出会ったんだ。TVシリーズの方で、僕は編集とキャスティングを関わっていたんだけれど、ジプシーの役がいいんじゃないかってことで彼女をキャスティングした。

彼女の演技はどこか生々しいさがあって、その素質にとても感心したんだ。それで『スリーデイズ』でもキャスティングしたよ。そんな撮影日数はなかったんだけど、その現場で話している時に、「いろいろな人物の視点からの恋愛物語なんて面白いんじゃない?」って言われて興味を持った。

それがこの企画の発端になったんだけど、彼女自身の話や過去の恋愛などを何時間も聞いたよ。自分も私生活で色々あった頃だったから、自身の恋愛にも重ねあわせて考えていた。そうゆうプロセスを得て、この作品は出来上がったわけなんだ。彼女は素晴らしいコラボレーターで、僕はまったく違った考え方を持った人と仕事することが好きなんだ。

今回のような複数のプロットが交差する映画を作る場合、観客が混乱しないよう、スティーブン・ソダーバーグ監督『トラフィック』のようにシーンごとにカメラのフィルターを変えたりして「今、どのプロットがどこで進行しているか」を明確に示す必要があります。
本作では観客を混乱させようとわざとミスリードする場面もありました。そういった画面をコントロールをする上で気をつけたことはありますか?

もともとジャンルで期待されているルールみたいなものを壊すのが大好きんだ。
『告発のとき』も殺人ミステリーだと言っておきながら、映画の2/3進んで行くと、モラルについてのミステリーになっていく。

だから、この映画も始めからルールを壊そうと決めていた。具体的な方法は決めていなかったんだけどね。でも、書き始めて1年くらい経った時、自分が見ないで否定しているもの、直面しているものが何なのか気づき始めてしまったんだ。長い間、時間を費やしている脚本だったこともあって、その間すごく犠牲にしているものが多かった。

ひとつの問いかけとして、モノづくりをすることによっての代価とは、何かを殺してまで作ろうとするモノなのかを疑問に思い始めたんだ。マイケル(リーアム・ニーソン)と同じように、自分の中で問いが繰り返されて、それが反映したものが今回の構造になっている。自分の心を一番乱しているのはこうゆうことなんだと気付いた時に、それがマイケルを通してのこの映画の構造に繋がっているんだ。

美術のローレンス・ベネットと共にいろいろ話し合いながら、3都市に違う色彩をつけてもらうようお願いした。あまりわかりやすくはしていないけれど、街が変わった時に雰囲気が違うとわかるような差をつけているんだよ。

この街を選んだ一つとして、本作は複雑なラブストーリーで、かつダークな面もある。だから、せめて街だけは美しい風景にしようと思ったんだよ。(笑)それに、それぞれロマンチックな街だったからね。最初はパリではなく、ロンドンにしようと思っていたんだけど、ロンドンでの撮影は難しくて、イタリアに行った時にフランスの建築物があるのがきっかけで、同じくらい美しい街並みのフランスに決めたんだ。paul-haggis-interview_01この映画の中で監督が特にこだわった台詞や演出はありますか?

今回繰り返されるフレーズがあるけれど、それは僕なりの観客に向けたヒントなんだ。実は、視覚的なヒントもあって、これは3つのラブストーリーのフリをしているけれど、実はパズルのような映画なんだよ。特に視覚的な面でね。

見逃しがちだけど、ローマのバー・アメリカーノでスコット(エイドリアン・ブロディ)が外を見ると、老人が入ってきて、後ろをベンツが通るだろ?ベンツの後部座席に座っている女性がいるんだけど、実はそれはアンナ(オリヴィア・ワイルド)なんだ。
次のカットでは、アンナがパリで車の後部座席で髪直す姿の彼女が出てくる。よく見ていると気づくんだけど、友達に「観た?」って聞くと「何が?」って驚くんだ。そうゆうのが楽しくて、好きなんだよね。

俳優のアドリブなどで、脚本と大きく変わった台詞はありましたか?

アドリブは彼らが自由にキャラクターを作る余地を与えて、任せようと思っていたんだけど、今回の役者はみんな台詞から外れたくなかったみたいで、一切なかったんだよね。
それぞれの役者さんがそれぞれのやり方で準備をしてきてくれて、監督としての演出は時々背中を押すことはあったけれど、必要ないほど自分たちのキャラクターを理解してくれていた。

モランは3ヶ月前にイタリアに入って、ロマ族の人と暮らし彼らをリサーチしてくれた。リハーサルする時間はほとんどなかったから、キャラクターについて役者さんと話したり、簡単な役者さんの読み合わせくらいだったよ。
オリヴィアの場合は、あまりにもキャラクターと本人の性格が違いすぎたから、他の役者さんより話す時間は長かった。オリヴィアはキャラクターを理解するのに苦労していたけど、最後には自分なりの解釈ができたみたいだったよ。