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80’s LAメタルでミュージカル映画『ロック・オブ・エイジズ』

80’s LAメタルでミュージカル映画『ロック・オブ・エイジズ』
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ミュージカルシーンの分析

この映画の音楽シーンは3つのパターンに分けられます。
1つ目はアダム・シャンクマンらしい、移動するカメラと共に状況が変化しつつ、そこにダンスが混ざっていき出来上がる映画的なミュージカルシーン。

2つ目に今回映画の振付は初となる、セリーヌ・ディオン、シルク・ド・ソレイユ、マドンナ、プリンスなど振付や「アメリカン・ダンスアイドル」の審査員で有名なミア・マイケルズらしい、固定された舞台で振付けられたダンスシーン。

3つ目に踊り要素のないロックバンドのライブシーンです。

1つ目はオープニング・シークエンスに結実しています。ここは「キャラクターが歌い出すミュージカル映画特有の展開」「ミュージカル映画的な芝居にダンスが組み合った動き」「ロックのライブの熱気」が見事に一体化していて素晴らしいの一言です。

映画冒頭、オクラホマからハリウッドに向かう深夜バスの中で、ヒロインであるジュリアン・ハフの歌い出しから始まる「Sister Christian」。それが車内で合唱に変わり、この作品が『ミュージカル』スタイルであることを提示します。曲が「Just Like Paradise」に変わったところで、キャラクターが歌いながらカメラが移動し舞台と状況がどんどん展開していくことで劇場の舞台とは異なる『ミュージカル映画』であることを提示し、続けて「Nothin’ But A Good Time」で歌を引き継いだディエゴ・ボネータがライブハウス内を移動し、カメラがそれに付いていき場内で熱気あふれる騒然としたライブシーンを見せることによって『ロック・ミュージカル映画』であることを宣言します。

しかもその騒然とした雰囲気の表現は単にライブシーンの再現ではなく、ちゃんとダンスが組み込まれて演出されているというのが見事です。それはその後このシーンに登場するラッセル・ブランドのパートのダンサーとの連携による動きでより明確になります。
ここはミキシングと編集も上手くて、途中途中にギターの音を際立たせたり、曲のサビの部分で客の合唱を前面に出したり、激しい動きに合わせたテンポのいいカット割りをすることで、芝居とダンスとライブが渾然一体となったパワフルなシーンを作り出しています。

2つ目のミア・マイケルズらしい振付けは、キャサリン・ゼタ=ジョーンズのダンスが迫力の「Hit Me With Your Best Shot」シーンを推します ((「シルク・ド・ソレイユ」っぽい、超絶なポールダンスを組み込んだ「Shadows Of The Night」も素晴らしいのですが。))。教会の椅子が並ぶ狭い空間を巧みに使いつつ、ご婦人たちの力強いダンスを前と後ろからのカメラを早いカット割りで切り替えることでテンポよく見せているシーンです。ここを振付けたミア・マイケルズはコミカルながら力強く、そして80’sのダンススタイル、特に当時のマイケル・ジャクソンのダンスを意識した振付けをしていると思われます。

アダム・シャンクマン監督の前作『ヘアスプレー』には、振付師仲間で後に『ステップアップ』『幸せになるための27のドレス』『あなたは私の婿になる』などキューティー映画のヒット監督となるアン・フレッチャーが振付補佐として参加していました。
しかしアン・フレッチャーも今は『魔法にかけられて2』の準備中らしいし、すっかり映画監督としてキャリアを築いているし、もう振付けやダンスには参加してないんだろうと思っていたら、このシーンでダンサーとして参加してました。
ゼダ姐さんの説法に反応して「うちの息子がステイシー・ジョックスの影響で馬が云々!」という台詞を言うご婦人です。踊りの時もゼダ姐さんのすぐ後ろで、パンツルック姿で力強く踊っています。
こういう自分の出を大事にする人っていいですね。

「Any Way You Want It」もミア・マイケルズのストリップ劇場での素晴らしい振付けとキャラクターたちの芝居が見事な編集で混ざり合って、この映画後半のハイライトとなっています。ストリップ劇場の振付けはポールダンスの女性ダンサーたちに目が行きがちですが、周りの男性ダンサーたちの、興奮した様子をダンスに置き換えた動きが画面全体をパワフルで躍動的にしています。

メアリー・J・ブライジの歌で始まる「Any Way You Want It」のこのシーン、途中にロック歌手として売り込みに行ったディエゴ・ボネータがレコード会社にダメ出しされ続けるというシチュエーションを描写します。ここは曲がちょうど伴奏のパートになっていて歌なしで芝居を見せるところです。
そのシチュエーションの最後、2番への歌い出しとなる印象的な「Hold On! Hold On!」の歌詞部分を歌いながらゆっくり立ち上がり、最後に「ラップは?」と提案するレコード会社の重役を演じているのが、この映画のオリジナルであるミュージカル版で主役ドリューを演じていたコンスタンティン・マルーリス ((「アメリカン・アイドル シーズン4」でベスト6まで残ったことで注目を浴びました。今は主にブロードウェイで活躍中です。))です。
ちなみに自分は実際の映像を見るまでサントラで聞いている限りでは、ここのパートはその直前まで歌っているメアリー・J・ブライジだと思っていました。彼の歌いっぷり、高音の伸びは凄いですね。

アダム・シャンクマン監督はこのシーンのような、オリジナル版やミュージカルへのリスペクトの仕方が毎回小粋です。
デビュー作『ウェディング・プランナー』では往年のミュージカル映画を野外上映のシーンでスクリーンに流しながら、ジェニファー・ロペスとマシュー・マコノヒーにダンスさせていましたし、『ヘアスプレー』ではオリジナル版の監督、女優、男優などを印象的なところで出演させています。
今回もコンスタンティン・マルーリスを「Any Way You Want It」の見せ場の1つとして印象付けるのに成功しています。

3つ目のライブシーンに関しては、トム・クルーズが歌う「Pour Some Sugar On Me」が代表的なシーンです。
曲冒頭の後ろを向いたトム・クルーズが「シコシコシコシコ!」と股間あたりでやって、水がブッシャー!と噴き出るというステージ演出は面白かったです。

ただこの映画全体に言えるのですが、ライブシーンのミュージシャンのステージ・アクションがあまりよろしくない。例えばこの曲のトム・クルーズのステージでの歌う振る舞いが、ボーカルのパフォーマンスとしては力みすぎてて、幾多のライブをこなして来たスターの色気を感じません。
ボーカル・アクションがメインなのもバンドのライブっぽくないですね。ボーカルとバックバンド、という関係にしか見えません。これは映画の演出上しょうがないのですが…

ライブ・アクションで一番「らしい」感じが出ていたのは、ラストの「Don’t Stop Believin’」のスタジアム・ライブのシーンで、向かって一番右にいたランディVを弾いているギターリスト役のブレブ・サリバン。彼自身80’sヘビメタのトリビュートバンドをやっているようです。
ラストの「Don’t Stop Believin’」ライブシーン、彼の動きに注目してみてください。かなり自由に動いていて、80’sのミュージシャンっぽくてかっこいいです。

ちなみに「アーセナル」のベーシスト役は、ミュージカル版で編曲とギターを担当していたデイブ・ギブスです。

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しかし映画を支持する人たちはいた

映画の方はこけたのですが、面白いことに公開後、世界中のiTunesの映画サントラ部門でこの映画のサントラが一斉に1位を記録します ((日本ではその時「押忍!番長2」が1位でした。))。アメリカのiTunesではこの影響で過去に発売されたジャーニーのベスト版がロック部門でベスト10に入る始末。本当にアメリカ人はジャーニーの「Don’t Stop Believin’」が大好きですね。もう国歌にすればいいのに(笑)

そんなわけでこの映画は80’sロック…とさっきから書いていますが、当時を知るものとしてこの呼称は違和感があります。やはりここは「LAメタル ((マニア一辺倒でむさ苦しいイメージだったヘビメタがアメリカ西海岸を中心にオシャレでカラフルでポップになったため、そういった曲調のものを当時何でもかんでもLAメタルと呼んでいました。ただその中の中心であるボン・ジョヴィは東海岸、ホワイトスネイクはイギリスと、決して全てがLA出身ではなかったので、後にカテゴライズされ直していますが。))」という当時使われていた日本独自の呼称 ((海外では長髪をたてがみのように広げたりしていたことから「ヘアー・メタル」と呼ばれています。ウォーレントあたりは一部で「バブルガム・ロック」などと呼ばれたりもしていました。))で書かせてもらいます。この方が当時を知っている者にとってはどういう種類の音楽かイメージしやすいでしょうし(笑)

そのLAメタルとMTVの洗礼を受けた人には、見ててとにかく懐かしくて楽しい、観ながら思わず口ずさんでしまいたくなる、思い出補正の素晴らしい「イベント映画」となりました。
ただ、この映画を支持する人が共通して口にするのが「自分は観て楽しくてしょうがなかったけど、人には薦められない」というもの。

人に勧めたいとは思うものの、自分の思い出と共に楽しむのですから、それを無理に他の人に共有させるわけにもいきません。ましてやこの時代を知らない世代には過去の感傷は無縁です。
さらに音楽のジャンルも当時大ヒットしポピュラーになったとはいえ、マイケル・ジャクソンやマドンナのように、誰でもとりあえず受け入れられる間口の広いジャンルでもありません。
この辺が、この映画を観た人はみんな満足度が高かったのに口コミ効果が弱く動員が伸びなかった理由の1つでしょうか。

真面目に見たら負け。メチャクチャだけどこんなに愛おしい映画はない!

映画の構成としては、ぶっちゃけ酷いです。だからこの映画を映画として「面白い」と人に薦めることはできません(笑)

キャラクターと物語が整理されてないから、群集劇にも関わらず各キャラが立ってませんし、各キャラのエピソードが有機的に繋がらずドラマも上手く展開していきません。
敵役がレコード会社マネージャーのポール・ジアマッティと、市長夫人のキャサリン・ゼタ=ジョーンズと2人いて、それぞれが全く絡まないまま別々の問題を解決するために物語が進むのも問題でした。

「夢を求めるものの挫折し、そこから再び這い上がる」という物語を描くため、若者男女2人の動向が描かれるわけですが、それなら物語の舞台の中心であるライブハウス「バーボンルーム」の存続問題に終始してもよかったんじゃないかなと思います。アーティストの意向など関係なく売れるために小さなウソを付くマネージャー役ポール・ジアマッティの小悪党ぶりは実に魅力的で映画の中で一番演技が面白いのですが、思い切って映画では削っても良かったのでは?と。

または逆にバーボンルーム存続に行政との対立を絡めない展開もありかもしれません。
ロック憎し!の市長婦人ら対立する権力を出すなら、バーボンルームという1箇所のライブハウスの存続問題ではなく、ロック自体を排除する運動で危機を描いてもよかったんじゃないかなとも思います。ロック排除のせいで客足が遠のいてバーボンルームの経営危機…というお話の方がすっきりしたと思います。

けど、それだとクリスティーナ・アギレラ主演『バーレスク』と同じような話になってしまいますね。あの映画の最後の解決方法は「土地の空中所有権があるから存続!」とかを語りだして飛び道具過ぎましたが(笑)この映画ならどんな内容であれ、最後はコンサートシーンで大団円が出来ますし。ロッケンロール!で解決です(笑)

あと、トム・クルーズ演じるロックスター、ステイシー・ジャックスのミュージカルシーンに時間を割きすぎてしまいました。役者陣では一番知名度があるトム・クルーズを起用したので登場シーンが増えるのはしょうがないとは思いますが、それが却って本編の構成バランスを大きく崩してしまったと思います。

と、真面目に語るとどこまでもダメな映画なんですが、ダメだからこそ愛おしい映画というのもあるわけで。自分はこの映画をダメなところも含めて全肯定します。

「ダメなところも含めて愛おしい」のはLAメタルに対しても同じです。この映画に対して文句を言う人はたくさんいます。批判も当然。だからと言って「B級、C級」と言いながら妙にスノッブ的に小馬鹿にしたような見かたをしようとも思いません。

「いや~ほんと酷いですよね。だけど好きなんです。」他人がどう言おうと関係ない。好きなモノは好き。それが堂々と言える映画です。
そしてそれこそが、この映画のテーマなのかもしれません。そのテーマはキューティー映画にも繋がります。