
「漫画映画漂流記」騒動記(余談)
私事ですが、2019年はNHK朝の連続テレビ小説「なつぞら」に大きく左右された年でした。それが最終的には当サイトの運営に影響を与えることになりました。長い余談なので飛ばしてもらっても結構です。
「なつぞら」は日本最初期の女性アニメーターの1人、奥山玲子さんの活躍をヒントにして日本のアニメーションの草創期を描いた作品。
朝ドラ100本記念作品であるということ、ヒロインを広瀬すずが演じるということ、そしてヒロインのヒントとなった奥山玲子さんの夫が、「アルプスの少女ハイジ」「母をたずねて三千里」「じゃりン子チエ劇場版」「龍の子太郎」、そしてスーパーマリオなどのキャラクターデザインを担当したアニメーター小田部羊一さんだったことから、放送開始前から高い関心がもたれていた作品でした。
筆者は2018年、京都国際マンガミュージアムで、小田部羊一さんをゲストにお呼びして3時間の講演会を行いました。これがとても好評で、ネット上で話題になったり、ゲーム雑誌の巻頭特集になったりしました。そのことから、2019年初頭にFRIDAYから4月から放送開始の「なつぞら」に関連して、小田部さんのインタビューをしてくれないかという依頼が来ました。
当初は「なつぞら」放送と同時にネットで公開してアクセスを稼ぐ「漁夫の利」企画だったのですが、3時間ほどおうかがいした小田部さんのお話が面白くて、当初の1回限りの企画から「奥山さんのこと」「小田部さんの新人時代」「ご夫婦のこと」の3部構成にしてまとめることを提案し、1回限りの企画が2ヶ月以上の連載企画となりました。記事自体は全3部作を3月には全て納品し終わっています。
この記事の第1回目が4月1日(正確には3月31日夜)FRIDAYデジタルで掲載されたのですが、「なつぞら」効果もあって、FRIDAYデジタルでの非芸能枠では過去最高のアクセス数を稼ぐほど話題となりました。
残念ながら「なつぞら」はアンチファンも多く、その理由の多くが、ドラマが史実とかけ離れているところにあったのですが、そういったアンチファンのバイブルとして、FRIDAYデジタルのサイトに掲載された、凛とした態度と強烈な個性をお持ちの奥山さんのことや史実を語る小田部さんのインタビュー記事が脚光を浴びる形となってしまいました。
いずれにせよ当初の予想以上の反響があったため、5月末辺りから書籍化の打診を受け始めます。筆者はこのサイトで時々ディズニーのアニメ作品について書いているように、そこそこの知識を有している自信はありますが、さすがに東映動画初期のこととなると、日頃研究している人たちに比べたら知識がペラペラなので、本にするなら他の研究家の方がまとめた方がいいと提言しました。
小田部さんという方は、高畑勲と宮﨑駿と共に三羽烏として「ハイジ」「三千里」を作ってきた人で、アニメーターとしての功績もすごいものがあるのですが、ご自身がすごく謙虚な方で他の2人に比べてあまり目立っていなかったので、本になるなら、ちゃんとしたもの(ちゃんとした研究者によるちゃんとしたアニメ研究本)になった方が小田部さんのためだ、と生意気に思ったりしたものです。
サイトに掲載する際に切ったインタビュー部分を追記しても書籍に必要なテキストの分量には届かないことがわかっていたので、追加のインタビューなどで書籍分のテキスト量を増やすアイディアを求められました。
そのときに提案したのが、小田部さんと奥山さんを仕事やプライベートで知る人達からの証言を集めることです。先にも書いたように小田部さんは謙虚な方ですから、周辺取材をすることで、ご夫婦のことやその時代が浮かび上がらせる事ができると考えたわけです。その際にインタビュー候補者の名前も「なぜその人なのか?」という理屈も付けながら挙げています。この段階で本の構成の骨子も出来上がります。
結果的にほぼその時の候補者どおりの方たちがインタビューに応じてくれました。
このときの人選で、すでにキューティー映画的な発想での本のコンセプトが出来上がっていました。
つまり、アニメーション業界の史実を語る内容でありながら、一方で仕事のことや、子育てなど日々の暮らしなど日常的なことを描き、アニメの制作現場を知らない様々な立場の読者でも共感を引き出そうとするものです。それをちょっとコミカルなタッチで。
まさにこれはキューティー映画だと思います。
結局、なんだかんだで6月に書籍化が決定し、筆者が企画と構成と追加インタビューを行うことになりました。そして「なつぞら」が終了する9月末には店頭に並べる必要があるので、8月末か9月初旬に出版するスケジュールが組まれます。実質制作期間は2ヶ月ちょっとです。その短期間で追加のインタビューイヘの交渉と、そのインタビューと、テープ起こしと、執筆・構成を行わないといけません。
筆者にはキューティー映画とは別の事業がありまして、こちらはアニメ原画集E-SAKUGAという電子書籍の企画・制作・配信なのですが、こちらもこれまでにはない3本同時制作で進行していました。本の執筆、電子書籍の制作、当サイトの更新…全部を同時にこなすのはさすがに不可能です。
そこで残念ながら、当サイトの更新をこれまで毎日更新だったのを不定期に切り替えることにしました。
また、巻末に掲載する予定の用語解説なども他のライターさんに分担してもらう手はずをとってもらいました。
時間もないので、とにかくインタビューとテキスト化を集中的に行うため、現在京都在住の筆者は東京で2週間泊まり込みで作業することに。出版社の担当者が「部屋を用意しますよ」と言ってくれたので、てっきり作家様っぽく「ホテルで缶詰」かと思いワクワクしながら東京の出版社に行ってみれば、用意されていたのは出版社内の細長い会議室の半分(もう半分はスポーツニュース配信班の作業場)で、寝るのは2段ベッドの仮眠室、仮眠室にあるシャワーを浴び、昼ごはんは社食…インタビューで外に出る以外はひたすら会議室の半分でパチパチとテキスト打ち…文字通り缶詰状態となりました。
その後京都に戻っても様々な作業は続き、インタビュー部分の執筆だけのはずが、表紙のレイアウト、題字デザイン、巻末の用語解説の全書き直し、校正まがいなことも含めて、印刷所に最終原稿を送り込むギリギリまでなんだかんだとやっていました。
「漫画映画漂流記」というタイトルは自分が付けたものではないのですが、元々のタイトル案が気に入らず、理論武装をして編集者と3時間ほど議論してタイトルを白紙状態にしたり、少しでもよくするために大いにぶつかり合いました。
表紙も大変でした。
当初、小田部さんは本の制作期間中、海外のイベントに呼ばれていたりで時間もないため、描けないと言っておられました。
筆者はインタビューで小田部さんが語られた、自宅作業場の「動画机は奥山さんが使い、小田部さんはテーブルに簡易的なトレース台を置いて作業していた」というお話がご夫婦の関係を示しているようでとても印象的だったので、それが表紙のビジュアルだなと考えていました。
ミニチュアセットを作って撮影するなどの案も考えましたが、やはりここは小田部さんの絵が欲しい、と。
そこで筆者が移動中の電車の中で思いついた絵を、iPhoneのメモ機能を使って、指で適当に描いて「こんな感じの絵をお願いします!」とメールに添付して小田部さんに送ったのです。
筆者が指で描いた適当なイメージ画
するとですね、小田部さんからお返事のメールが来まして
「びっくりしました。まるで仕事場を見ていたかのようです。素晴らしい。これが表紙でいいんじゃないでしょうか?」
と、明らかに適当に褒めて逃げようとしているのです!(笑)
いやいや、そうはいきません、騙されませんよ、というので描いてもらったのが本の表紙です。
(ちなみにそれも最初は「時間がないから線画だけは描くから色塗りはよろしくね」と言われてて、いやちょっとぉお!!色塗りが一番大事でしょう!!と。一応表紙の原稿があがるとき、色塗りの待機はしていましたが、小田部さんが色も塗ってくれた状態で絵を出してくれて、ほんとにホッとしました)
そんなこんなで最後の方は毎日4時、5時まで作業していたと思います。少人数でよく2ヶ月ちょっとで仕上がったものです。
「漫画映画漂流記」はこんな機会(書籍化)は二度とないという思いから、これまでのアニメ研究本にはないキューティー映画テイストを盛り込みました。書籍に関わることを尻込みしていた自分がなんとか自分がやるべき意味と勇気を見出したのは、女性アニメーターと夫婦を扱ったアニメの研究本に、キューティー映画テイストを取り込めるのは自分しかいない、と考えたからです。
アニメとキューティー映画を知る自分しか出来ないもの、そしてキューティー映画の原作にもなりうるものを目指しました。
くすっと笑えて泣けて、世界観ではなく普通の状況での人間ドラマで引っ張る…そんな本に仕上げたつもりです。
結局、本の執筆のため電子書籍の作業も遅れて、今年はとにかく多忙を極めました。貧乏暇なしって本当だったんですね。
そのため映画を鑑賞する時間的な余裕もなくなりました。配信すら見ることが出来ないくらい、6月末から9月までは地獄のようなスケジュールでした。そのため今年は話題作はなんとか見たものの、マイナーな単館系などのキューティー映画をほとんど見ることができませんでした。
「漫画映画漂流記」はおかげさまで「なつぞら」効果もあり、この手の種類の本としては異例の大ヒットとなりました。発売後2週間足らずで重版がかかったほどです。ネットでのみなさんの評も恐る恐る片目で覗いたりしていたのですが、好評のようでホッとしております。
「漫画映画漂流記」は、これまでのキューティー映画とアニメの知識を総動員・総決算したものです。自分が表現できるメディアで出したキューティー映画です。
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書籍で買っていただいた方へ
カバーを外して裏表紙をみてください。
キューティー映画のニュースソースの変化
配信が中心となったことから、広告宣伝にも変化が起こっています。
当サイトはだいたい20くらいのアメリカを中心とした海外の映画ニュースサイトのニュースを毎日読み、それらの記事を分析して独自に毎日最新情報の記事を起こしてきました。しかし海外の映画情報サイトでキューティー映画系の情報が減少の一途をたどっています。作品数は増えているのに、です。
この要因としてMeTooブーム(あえてブームと書きます)以降というのがあります。当サイトが去年の総括で予想したとおり、MeTooブームの反動でキューティー映画は、シニカルなもの、内相的なものが減り、コミカルなもの、ゴージャスなものが戻っています。MeTooブームに乗っかり、女性の強さを変に強調したり、男女逆転の立場を主張をする映画は軒並み興行的に低評価、つまり支持されない結果に終わりました。
しかしMeTooブームの生み出した影として、内容を読み込まず表層的に批判をする人たちが増えました。当サイトも「キューティー映画」という名前だけで、日本の意識高い系の映画好きエセフェミたちから口汚い批判を受けています。
海外も同様で、キューティー映画を褒めることでいわれのない攻撃を受ける可能性もあります。それもあってイメージ的に軽くても内容が良いキューティー映画は積極的に紹介がされない傾向になっています。
また、キューティー映画で活躍していた有名女優たちがプロデューサーとして企画から関わるドラマに移行していることも減少の理由としてあります。
そんなことから、以前はソース元が複数あったり、記者による関係者への独自取材などもあったのですが、今はソース元がほぼ1つとなり、各サイトの記事もソースを引用するケースが多くなっています。またはプレスリリースそのまま、という感じです。映画宣伝や映画情報の伝達の形が変わってきたことを痛感します。
配信中心となり、映画情報を事前に流して宣伝する必要性が薄くなり、ますますキューティー映画系の事前情報は減っていくことが予想されます。
最新ニュースを掲載し続けることの方がアクセスは稼げます。アクセスを稼ぐことは当サイトの運営維持に繋がります。しかしそのために薄い内容のニュースを多発させても手間がかかるだけですし、それなら大手の映画サイトを見ればいいだけの話です。当サイトの存在理由にはなりません。
当サイトは今後、最新ニュース掲載が中心のサイトから、「キューティー映画の情報サイト」という原点に戻ることにします。当サイトで紹介する映画がみなさんが鑑賞する指針の一つになればいいという発想です。そのための情報としてニュースを扱うというものです。即効性を重視せず、資料性を重視します。
またキューティー映画のアーカイブ化は以前からやりたいと思っていてなかなか手が付きませんでしたが、今後はアーカイブ化に力を入れていこうと考えています。
本国版とは異なる、日本版ソフトのパッケージデザインやポスターなどは、日本でしか収集できません。可能な限り収集し掲載できればと思っています。
※こういうことって、本来なら大学など学術で行うべきことですが、女性向け映画研究のほとんどがジェンダーやフェミニズムなど社会学的なことが中心で、このあたりの関心はないようなので…すでにやっている、または関心のある学術関係者がいればご連絡ください。