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「15(フィフティーン)・シェイズ」な『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』

「15(フィフティーン)・シェイズ」な『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』
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宣伝展開の巧みさ、2月13日、14日でほぼ世界同時公開という仕掛けで、数々の記録1を作った、BDSM2で男女の恋愛を描く話題作『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』の原作はちょっと変わった経緯で生まれました。

2次創作から生まれた原作

原作は「トワイライト」ファンであるイギリスの主婦E L ジェイムズが書き、サイトに投稿した2次創作(ファンフィク)「Master Of The Universe」が元です。
「トワイライト」のメインキャラ、人間の女子高生ベラとヴァンパイア、エドワードにBDSMをさせるという内容が話題になります。それに目をつけた出版社の提案で、キャラクターを借り物からオリジナルキャラクターにしてストーリーを補足し「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」と改題し、3部作で出版。ちょうど電子書籍という個人の手元に届きやすい販売方法の後押しもあって、女性、特に「トワイライト」を読んで育ったお母さん達に受けて空前の大ヒット。気付くとE L ジェイムズはフォーブスの作家部門長者番付1位になっていました。

日本人の我々は原作を翻訳家の方が上手く訳した文章で読んでいるわけですが、原著はE L ジェイムズ自身が認めているように、言葉の選び方が単純だったり、同じ言葉が何度も出てきたり、と文章は上手くないといいます。

しかし、原作はプロではない人の手により2次創作から出てきたこともあり、自分の好きなキャラクター達への思い入れと、彼らの理想とする姿が文章から溢れ出てきています。そのため稚拙な構成ながらもキャラクターに感情移入出来れば、読者は興味が尽きることなく読み進めることが出来ると思います。

原作を映画化する時の問題

しかし映画は構成が原作改変のつじつま合わせに終始していて、キャラクターの掘り下げやドラマの描き方が上手く出来ていません。

原作を脚色したケリー・マーセルは『ウォルト・ディズニーの約束』の脚本を担当。この時はすでに書き上げられていた脚本のリライトを担当しています。アレンジャーとして優秀な人なのでしょう。しかし今回は原作のアレンジがあまり上手く出来ていないように思えました3

人気原作小説を映画化する際、原作の「どこを削除、どこを改変するか」という映画制作側の判断が重要になってきます。
その判断が正しいと、映画になった時、原作に描かれている内容やテーマが原作以上に魅力的に提示されます。

しかし創造のプロでない人間が強い権力を持ち、その内容に意見した時に得てして起こることがあります。
内容の全てが理屈で組み込まれ、全てが入る分、平均的になってしまうということです。
そういうものを「凡庸」というのですが、今回まさにこの映画がそれでした。
映画は原作とは異なる構成ながら、原作の枚数を減らしているだけで映画ならではの大胆な変更がありません。
想像でしかありませんが、映画化の改変の際、原作者の顔色を伺いすぎたのではないか?と思ってしまいます。

スッキリしたがメリハリのない構成

映画は原作の構成をだいぶ整理しています。スッキリしているのですが、似たようなシチュエーションとテンポの映像が続くので、構成にメリハリがありません。全ての登場人物が説明的でストーリーに機能していません。

監督のサム・テイラー=ジョンソンに才能を全く感じませんでした。当初監督候補に名前が挙がっていたアンジェリーナ・ジョリーの方が面白い演出をしたと思います。

『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』に続いて編集はリサ・ガンニングが担当していますが、この人の編集も凡庸。
ダメな演出にダメな編集で出来上がった映像のテンポは常に同じ。この映画で最重要なBDSMシーンも緊張感が全くなくアクビが出るほど退屈でした。
BDSMシーンは日常から非日常に移る意味がないと意味がないと思うのですが、そういうのが全く感じられません。ひとえに演出力のなさです。

唯一の救いは、やはり『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』で監督と組み、その後『アベンジャーズ』『ゴジラ』と大作を撮っているシェイマス・マクガーヴェイのカメラによる美しい画。光と影を時に意図的に、時に自然に組み込んだリッチな映像でなんとか映画の質を保っています。

音楽は、豪華な提供楽曲が多彩で、映画の編集リズムが単調な分を補っています。ダニー・エルフマンの劇伴がシリアスなシーンでもどこかコミカルに聞こえてきたり、選曲の意図がよく分からないのですが、曲自体はさりげないながらもしっかり主張していて良かったです。

意外とキューティー映画のシチュエーション多い?

映画全体はオサレでシリアスな雰囲気で作られているものの、シチュエーションがキューティー映画みたいなのばかりでした。

アナとグレイの出会いシーンは、原作通りにアナがグレイのいる社長室に入る時にコメディのような”コケ”るのがきっかけなんですが、やはり絵で観せられるとキューティー映画のコントにしか見えなくて…
しかもダコタ・ジョンソンの”コケ”芝居が上手くないし(笑)ここはもっとリアルに自然につまづく感じにしていいんじゃないかなと思ったりしました。

映画公開前のメインビジュアルとなったエレベーターでの初キスシーン、その数秒前まで「契約しないと君には触らない」と抜かしてたグレイが、その数秒後「契約なんてくそくらえだ!」と激しくキスを求めます。

やりたいことはわかります。抑えきれない欲望が爆発するシーンです。でもそれなら「契約しない」と「くそくらえだ」の間にワンクッション、爆発直前のシチュエーションを入れないと「契約」という特殊性が活きませんし「くそくらえだ!」の感情爆発も成立しません。

だいたいグレイは、契約前にも関わらず、なんだかんだ上手いこと言って契約内容のことを散々アナに強制してるんですよね。契約もしてないのに相手に色々要求するなんて、下請けいぢめもいいところです。下請法違反です。

映画でのグレイの母の登場シーンもドタバタ青春コメディーのようなシチュエーションです。
グレイとアナはハァハァしながらベッドイン、お互い興奮が高まりいざ、というときに遠くから女性の声、グレイ「やばい、母だ!」と慌ててズボンを履いて、入ってきた母に何事もなかったかのように対応(笑)おまえら高校生か。

このシーン、母親の登場は「近くに寄ったからお昼を食べようと思って」と部屋に入ってきて、それを断られると帰るという、単なる紹介でしかありません。
原作とほぼ同じシチュエーションなのですが、ここは映画が台詞でさり気ない改変をしていて、それが良かったです。

グレイが母のことを「お母さん」と呼ばず他人行儀な呼び方を終始します。それを母親が「お母さんって呼んでいいのに」とさらっと話すのですが、この台詞で養子であるグレイと養母である母親のどこか距離のある関係が感じ取れます。

こういうさり気ないけどキャラクター性が感じられる台詞の改変がこの映画にはもっと必要でした。

キャラクターの劇中での変化と『トワイライト』

原作のアナは、グレイの仕事に関係する女性やグレイが過去に付き合ってきた女性に、気後れしたり嫉妬したりします。
そういうアナがグレイとの服従プレイを通して自分の意思や思いを主張出来るようになります。

これが映画では、ついさっきまで処女だった女の子が「契約はまだよ、うふふふ」と男を惑わす子猫ちゃん(笑)のようになっています。

一方、グレイも原作では事あるごとにアナの周囲の男性に嫉妬し警戒し、独占的な行動を強めていきます。
そうしてグレイの、SMプレイでは主人となりながらもどこか幼い人間性が描かれていきます。

これが映画では、突然現れるストーカーのようなグレイになっています。
アナがクラブで泥酔し、今、まさに吐こうとせんときに突如現れるグレイ!
アナの部屋に唐突にグラスとボトルを持って現れるグレイ!
アナが母親と昼のカフェで会話してたらそこに現れ、気遣わせる母親をその場から追い出すグレイ!
そう、グレイの突然現れる様が『トワイライト』の最強のヴァンパイア、エドワードのようなのです(笑)

『トワイライト』は「血を吸う」という行為がSEXのメタファーでした。『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』ではSEXシーンが「恋愛」のメタファーになっていて、SM行為が「SEX」のメタファーになっているように思えます。

そうそう、グレイ一家食事シーン、ここで原作同様、映画でも父と兄の間で野球の会話が交わされます。原作はその辺がさりげなく挿入されていましたが、映画は前後の脈絡なく唐突に野球の会話が出てくるので、『トワイライト』のパロディ4であることが分かりやすくなっています。

R15+の『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』

グレイ役のジェイミー・ドーナン、アナ役のダコタ・ジョンソンは熱演でした。しかしその熱演が日本では100%見れません。

今回日本での上映は年齢制限がR15+になりました。そのため男女の絡みのシーン、ヌードシーンに、ボカシと呼ぶにはあまりにはっきりした黒丸が画面に大きく出て美しい画面を邪魔します。

今どきAVやアート系映画などで細かくモザイク状に処理されたボカシを見てる日本人に、なぜ昔懐かしい感じのするボカシを見せるのか…懐古主義なのか…(違う)

とにかくこの黒丸が、映画のことを全く何も考えずにガサツに画面を占領します。しかもボカシパターンが黒丸になったり、画面半分黒くしたり、ボケた処理になったりと、バラバラなので画面を汚しているようにか見えません。

色々作品のダメな点を書きましたが、結局このボカシが『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』最大の魅力であり、同時に最大の売りの、美しい絡みのシーンを邪魔し映画の価値を落としてしまっているのが残念です。

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  1. 全米R指定映画の事前オンライン予約で最高売上を記録、サントラは総合チャート1位を記録など。 []
  2. ボンデージ・SM。拘束するプレイが中心のSMです。 []
  3. 脚本クレジットはケリー・マーセルですが、彼女が書いた脚本は『クローサー』原作・脚本のパトリック・マーバーによってリライトされています。ケリー・マーセルは本作に関してコメントを一切出していません。 []
  4. 『トワイライト』1作目で人の血を吸うことを我慢しているヴァンパイア一家は、禁欲を紛らわすため、スポーツで発散して欲求をごまかす中学生男子のように、森で超人野球を繰り広げるんです。映画ではさすがに間抜けだから改変すると思ったら、普通に超人野球をしてたのでびっくりしました(笑) []
  5. ユニバーサルのブルーレイは北米版以外、世界中の字幕・吹替えが最初から組み込まれている。イギリス、ドイツなどヨーロッパ版は本来リージョン設定が日本と異なるので見れないが、ほとんどがリージョンフリー。なので、イギリス版を購入すれば日本語版と同等のブルーレイが手に入る []