Home Review 傑作小説の映画化『お買いもの中毒な私!』

傑作小説の映画化『お買いもの中毒な私!』

傑作小説の映画化『お買いもの中毒な私!』
0

この映画、邦題は違いますが1イギリス生まれの人気小説「レベッカのお買いもの日記」の映画版です。
映画は舞台をアメリカのニューヨークにして、原作の1巻と2巻を合体させた内容になっています。

原作の「レベッカのお買いもの日記」は、お買いものするたびに一々自分に言い訳をしたり、買い物のせいで破産寸前なのをばれないように嘘をつき続けるレベッカのダメ人間、人間くささがとても楽しい大傑作のユーモア小説で、個人的には現代版「赤毛のアン」だと思っています。アンはシリーズを進めるごとに成長していきますが、レベッカは一向に成長しません(笑)

小説の方では、レベッカはイギリス人でロンドン在住。
大金持ちのお嬢さんの親友スーズと一緒に住んでいます。働いているのは経済誌の編集部で小さな記事を担当。経済なんてよくわからないしつまらないから適当に仕事をこなす毎日です。
あるときレベッカは経済界で話題になっていた新進気鋭の広告代理店の青年経営者ルークと出会います。
ルークが気になるレベッカですが、一方彼女は買い物のし過ぎで銀行から督促状が来る毎日。心配するスーズにまで嘘をついて銀行から逃げ回っています。
そしてレベッカは自分のいい加減さから借金がかさみ過ぎ、とうとう自分のカードは使用できなくなり、信頼も失い、逃げるように田舎の両親のもとへ。そこでもレベッカは両親に、催促の電話をかけてくる銀行員をストーカーだと嘘を言って守ってもらおうとします。
しかし、ある身近な問題がきっかけで投資系企業の不正問題をゴシップ紙に書くことになり、一躍、時の人に。
そして企業の広報として雇われたルークとテレビで対決する羽目になります。レベッカは知識も立場も何もない圧倒的に不利な状況です。さて対決の行方は…

下手糞なストーリー説明で申し訳ないですが、とにかく原作は面白い。一読をおススメします。

原作はプロットとキャラクターの設定が秀悦です。2巻では今度は舞台をニューヨークに移し、またまたレベッカは懲りずにお買い物のし過ぎで借金がかさみ…3巻は結婚、4巻は新婚生活、5巻は妊娠、6巻では子供も一緒に…と、ライフスタイルが変化しながらも毎回レベッカは成長せず買い物を続け、彼女を心配する人たちに嘘をつき、自分に甘え、結果とんでもない事態になり…を繰り返します。

普通この手の小説では、読者は主人公に共感し主人公の行動に一喜一憂して読み進めて行きます。物語の爽快さは読者と一体化した主人公の活躍で表現されます。しかし「レベッカのお買いもの日記」は単純にそうなっていません。

最初、読者は何かと言い訳しながら買い物をし続けるレベッカに笑いながら共感します。
「そうそう、こういうことってある。」とか思いながら。

ストーリーが進んでいくうちに、レベッカは自身の借金から事態がドンドン悪くなってきても全然反省せず、心配する友人や両親などにも嘘をつきはじめます。
レベッカ以外の人たちはみんな親切で優しい人ばかりです。なのにレベッカだけが嘘をつき続け、人々を騙し続け、状況をどんどん悪い方向にしているのです。

読者はレベッカの本当の姿、いい加減で嘘つきで自己中心的なレベッカを知っています。だからいつまでもレベッカの嘘でうまく進見、周囲のいい人達が翻弄されていくお話にイライラしてきます。

そして読者のイライラ感がピークに達するあたり、絶妙なタイミングでレベッカの嘘がばれ、叱られ、一気にみんなの信用を失います。
ここでやっとレベッカも真摯に反省し自分を叱責します。

このとき読者は、共感していたはずのレベッカに対していつの間にか敵視しているはずです。
そしてレベッカの失敗に対して、「当然の報いだ」と悪者がやっつけられるときの爽快感と同じものを感じます。

読者は次に、反省したレベッカが心機一転、無心になってがんばる姿を応援しながら、物語を読み進めることになります。結局、レベッカはがんばって何かを成し遂げるわけですが、読者はそれに拍手喝采。いつの間にかレベッカに再び共感し、彼女の成功に対して爽快感を覚えながら気持ちよく物語を読み終えることが出来ます。

最初の買い物の言い訳などを通して、読者に笑いと共に共感させておいて、嘘がエスカレートしたところで読者をいったん引き離し、嘘がばれて怒られているところで読者の良心・常識をくすぐってヒロインに向けての悪意で爽快感を与え、そこからヒロインが這い上がってがんばる姿をみせることで、引き離した読者に再び応援させて、最終的に成功するところで、読者は主人公と一体となって喜ぶ…

読者の導き方がすごく高度な構成だと思います。

普通の話だと、読者は何かで落ち込んだ主人公に共感し励まし、がんばる姿を応援し、そして成功を共に喜ぶのですが、レベッカの場合、落ち込んだとき読者に共感させないのがこの話の特徴であり、物語として魅力的な展開になっているところです。

2012年3月現在、原作は6巻まで出ていますが4巻まではこの物語構造2です。この構造が「レベッカのお買いもの日記」の魅力です。

さて、原作についてが長くなりましたが(笑)やっとこさ映画についてです。原作の持つ魅力的で高度な構成をどう脚本に反映させたのでしょうか?

  1. 映画宣伝のことを考えても、この有名な邦題を変えたのかは謎です。原作の邦題は出版社のヴィレッジ・ブックスで付けたものですから、オリジナルにこだわるディズニーとしては邦題も映画オリジナルを持っておきたかったということでしょうか? []
  2. 5巻「妊娠篇」は違います。4巻のあとがきで、2巻から翻訳を担当されている佐竹史子さんがこの構造と読者が得る快感について指摘しておられます。 []