Home Review 強烈なタイトルだけど、中身は王道キューティー映画『ヴァギナ・ウルフなんかこわくない』

強烈なタイトルだけど、中身は王道キューティー映画『ヴァギナ・ウルフなんかこわくない』

強烈なタイトルだけど、中身は王道キューティー映画『ヴァギナ・ウルフなんかこわくない』
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『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』について

『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』は大学教授と学長の娘である妻による、中年夫婦のいがみ合いと、大学に来たばかりの若い教授とその妻が加わり、4人の酔っ払いによる赤裸々な状況を描いた作品です。

元々は舞台劇で、現代アメリカ演劇の代表的な作品と言われていています。1966年には、ブロードウェイで同劇を演出したマイク・ニコルズが初監督、エリザベス・テイラー、リチャード・バートン、ジョージ・シーガル、サンディ・デニスという出演陣で映画化され、口汚い言葉で夫を罵倒し続けるエリザベス・テイラーは本作でアカデミー主演女優賞を受賞しています。(サンディ・デニスは助演女優賞受賞)

とにかくずーーっと言葉の応酬、罵り合いが続く映画です。酔っぱらい達の会話をリアルに描いているので、会話もお互い繋がりませんし、知的な会話をしていても論理的におかしいですし、今見ると、間延びして疲れる映画だと個人的に思っています。(「全員アカデミー賞にノミネートされた4人の俳優たちによる演技の応酬!」という色眼鏡で一生懸命見ないと、英語による会話劇をただ見てるだけというのは、しんどい…)

バージニア・ウルフなんかこわくない [DVD] DVD

価格¥300

順位145,400位

出演エリザベス・テイラー, リチャード・バートン, ジョージ・シーガル, ほか

監督マイク・ニコルズ

Unknownエリザベス・テイラー

発行ワーナー・ホーム・ビデオ

発売日00.04.21

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『ヴァギナ・ウルフなんかこわくない』について

さて、その名作をタイトルでもパロディーにし、劇中でも『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』のパロディー映画を作る過程を描いたのが、本作『ヴァギナ・ウルフなんかこわくない』です。

お話は40歳で貧乏生活のため、友達のガレージに住むインディペンデント系の女性映画監督がヒロイン、アナです。
彼女はラテン系で、しょっちゅうおせっかいな母親が電話をかけてきて辟易しています。

このアナは、監督のアナ・マルガリタ・アルベロ自身を投影したものです。実際劇中に出てくる「ヒロインが過去に唯一撮った短編映画」という設定で出てくる映画は、アナ・マルガリタ・アルベロ監督の2006年のデビュー短編映画『不思議の国の女たち』ですし、彼女自身キューバ人です。
この映画の外枠は彼女自身の半生記のパロディーで、劇中劇が『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』のパロディー、という構造になっています。

アナは普段、美術館の劇場で小さなショーをやって日銭を稼いでいるのですが、そこで客として来ていたオシャレな黒縁メガネをかけた女学生に一目惚れします。
女学生は、アートをかっこ良く小難しく語ろうとする典型的なシネフィル(個人的には「黒タートルネット族」と呼んでいます)です。
そんな女学生とお近づきになるために、アナは『ヴァージニア・ウルフなんてこわいくない』のレズビアン・バージョンを作ろうとします。

なぜ『ヴァージニア・ウルフ』だったのか?

アナの映画制作の動機である「好きな女の子とお近づきになるため」は一見不純に見えますが、自主映画ではよくあること。しかし好きな女の子はバリバリのオサレ系シネフィルです。その彼女が参加したがり、かつ協力してくれる人たちが納得しうるには「『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』のパロディをやる」という企画は実に説得力があります。

その他に「セットが部屋のセットだけでOK」「4人の登場人物が話すだけで済む」と、低予算の自主映画に適した題材だから…など、真面目な理由もあるのかもしれません。しかし劇中では明確な理由付けがありません。そしてそれでいいと思います。
「アナが好きな女の子と一緒にいたいから、ヴァージニア・ウルフのレズビアン版を作ろうと思いついた」でいいのです。

この映画の本質は名作のパロディを見せることではなく、映画制作の過程でヒロインが幸せになろうと周囲を巻き込みもがきながら、やがて自分の間違いに気付き、自分のダメな部分を受け入れた上で改めてがんばる、というもの。
劇的に変わりはしないけど、ヒロインの気持ちの切り替えとその行動が、非常に気持ちよく観客に届くキューティー映画の王道的な作品です。

キャスティングとパロディ

さて、劇中内でのパロディー映画には4人の出演者が必要です。アナ自身とシネフィル娘の他に2人必要となり、そのために旧友のレズビアン仲間を配役しますが、この2人の設定がキューティー映画してていいです。

1人は女優然として自分が目立つようにエリザベス・テイラー役を要求するグィネヴィア・ターナー、もう1人がオリジナルでサンディ・デニスが演じた『ヴァージニア・ウルフ』での若妻を演じる、ちょっとぬけてるお人好しのキャリー・プレストン。

グィネヴィア・ターナーは撮影現場では時にわがままで厳しい女優、オフでは時に優しく理解ある旧友、というキャラを見事な貫禄で演じていました。

シネフィル娘役のジャニナ・ガヴァンカーはヒロインを惑わすクール・ビューティー&男装の麗人として、この映画の唯一のビジュアル担当として映画を華やかにしています。

しかしこの映画で一番おいしい役だったのは、パロディー映画の出演者役ではなく、劇中、映画制作の募集を見てやってきた、元AVのカメラマンで初めて映画のカメラを担当するアグネス・オレク。
彼女はノンケという設定なのですが、映画制作でアナを助け、アナのそばに寄り添い友情を築きながら、やがてアナが映画を完成させるための原動力となっていきます。
アナ自身を見つめ思いやる優しさ、損得なしに行動する誠実さを持つキャラクター設定と、それを演じたアグネスはほんと素晴らしかったです。また、先にも書いたこの映画の本質を示すキャラクターでした。

『ヴァージニア・ウルフなんてこわいくない』のパロディ具合は絶妙でした。オリジナルを見た人なら覚えているであろう、特徴的なシーンに絞ってパロディ場面を見せたのは無駄がなくて良かったです。

リチャード・バートンが若夫婦の前でエリザベス・テイラーに罵り続けられ、奥の部屋からライフル銃を手に戻り、エリザベス・テイラーの背後に近づく…という、オリジナルで最も緊迫感があるシーンがあるのですが、そこをパロってましたし、オリジナルの後半に4人でカフェバーに繰り出し、そこでエリザベス・テイラーとジョージ・シーガルの2人が謎のクネクネ・ゴーゴーダンスを踊るシーンがあるのですが、振付けも完璧にさり気なくパロっていたのは面白かったです。
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1:25~のダンスがそれです

インディペンデント映画ながら抜群の選曲

この映画では予算の関係から有名曲は使われてませんが、劇中で流れるロックやハウスのインディーズ系音楽がどれも素晴らしい選曲でした。サントラがないのが残念です。その一部をご紹介します。
https://youtu.be/TGFeDQDmDE4

https://youtu.be/dLxJbPIlIXw

メインビジュアルに使われているかぶり物の強烈さと、インパクトの強いパロディタイトル、さらに監督自身の自伝的内容、ということでキワモノに見えますが、映画で描かれるテーマや劇中のキャラクター、使われている音楽のセンスと、全てが実にまっとうな、見た後に気持ちのいい余韻が残るキューティー映画でした。