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第30回東京国際映画祭:こんなはずじゃなかった!

第30回東京国際映画祭:こんなはずじゃなかった!
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冷酷な不動産王にして驚異の舌を持つ男ルー(金城武)。買収を狙う上海のホテルで素晴らしい料理を出すシェフと巡り合う。そのシェフはシェンナン(チョウ・ドンユィ)。2人は互いの正体を知らずに出会っていた…

喜歡‧你/This is Not What I Expected

スタッフ

監督:デレク・ホイ
脚本:シュイ・イーメン、リー・ユアン
撮影監督:ユィ・ジンピン

キャスト

金城武、チョウ・ドンユィ、スン・イージョウ、リン・チーリン

金城武の新たな魅力

大金持ちで独善的、鼻持ちならない態度で情が薄い、美食家で確かな舌を持つルー、一方でオッチョコチョイでだらしないけど、情に厚く、独創的で腕は確かなシェフのシェンナン。相反する2人が互いの素性を知らないままいがみ合い、料理を通じて交流していき、やがて2人はこれまでと違う自分になっていることに気付く…というのが、この映画の展開です。

本作は蓝白色という女性作家の「男人使用手册」という小説を原作としています。シェフの女性と美食家の男性が、いがみ合いながらも惹かれ合うという展開は同じですが、舞台やキャラクター設定はかなり改変されているようです。

チョウ・ドンユィ演じるシェンナンのキャラクター設定が素晴らしいです。
映画の最初、シェンナンは親友の女の子を捨てた男に復讐するため、その男の車のボンネットの上に乗ってあぐらをかきながら、ナイフでギコギコと「このクソ野郎!」的なメッセージの傷を付けています。
親友のために戦うキューティー映画のヒロインとしてもう観客の共感度100%です。そしてその車がシェンナンの勘違いで、実はルーの車だった…というコミカルな出会い方で、キューティー映画の出だしとしては100点満点です。

ホテルの調理場でシェフの1人として働くシェンナンは、ほどなく同僚の彼氏に振られるのですが、「お前は例えるなら”ニラ”だ」とまで言われるくらい徹底的に女性的な魅力がありません。
私生活はだらしなく部屋は散らかりっぱなし。行動は粗忽でオッチョコチョイ。そんなシェンナンが、映画ではどんどんヒロイン然として魅力的になっていきます。これはひとえにチョウ・ドンユィのコミカルな芝居と人懐っこい笑顔、そして共感されるキャラクター設定のおかげです。キューティー映画王道のヒロイン像が実に魅力的に描かれていました。

その後、2人は事あるごとに「(意図していないのに)シェンナンに迷惑をかけられるルー」というシチュエーションで出会うことになります。
金城武は常に冷徹でかっこいいキャラクターですが、「受け」の芝居できっちりと笑いを作っていきます。、かっこいい佇まいからのオーバーなリアクションなど、金城武のコミカルな名演がとにかく光りました。

犬のう○こを踏んでいたことに気付くシーンがあるのですが、その時のリアクション芝居、顔芸は特筆すべき物があります。金城武ファンには是非注目してもらいたいシーンです(さらにその犬のう○こにはちゃんとオチがあるのも素晴らしいです。)。さらに特殊メイクでひどい顔にもなります。かっこいい姿も面白い姿もとにかく色々な金城武が楽しめる映画です。

そしてここでもルーが嫌なやつなのに共感できるキャラクター設定の作り方のうまさが見られます。
ルーは普段、ちょっとでも気に入らないととすぐ吐いて捨てるくらい高級料理に厳しいのですが、そんな彼の密かな楽しみは夜に1人「出前一丁」を食べること。その作り方にも独特の美学があるという設定は楽しかったです。ちょっとした庶民性を加えることで、ルーというキャラクターが嫌な奴のままでも親しみがわきます。そしてそれは劇中のシェンナン同様、観客もルーを愛すべきキャラクターとして観ることができるわけです。

ちなみに香港では「出前一丁」は日本の発売翌年から販売されていて、その後独自に発展し種類も豊富。とても良く知られている商品だそうです。

キューティー映画の王道。心温まる物語

この映画、『プリティ・ウーマン』の展開と似ています。
『プリティ・ウーマン』のリチャード・ギアが演じたエドワードは、ジュリア・ロバーツ演じるビビアンと出会うことで、今の自分の立場や仕事の仕方に疑問を感じるようになり、自分の力で新たな道を切り開こうとします。
一方ビビアンはエドワードに見出されたことで本来の美しさに磨きがかかります。

『こんなはずじゃなかった!』はルーがシェンナンと出会うことで自分の今に疑問を感じ、そこから成長する話です。一方でシェンナンはルーに見出され、シェフとしての自信を持つことになります。
と、『プリティ・ウーマン』に似てはいるのですが、本作の2人は共に欠点だらけです。そこに「料理を通じて不器用な男女が心を通わせていく」というスパイスを効かせます。それが実に微笑ましく楽しく描かれており、結果として『プリティ・ウーマン』の2人よりも共感できる身近なキャラクターのお話となっています。

主役の2人がふぐの毒で幻覚を見たりする、ちょっとやり過ぎかな?と思えるような、すっ飛ばしたシチュエーションすら、最終的には心温まるシーンに繋げるあたり実に巧みな演出と構成でした。

ただ、後半になってのヒロインのライバルとなるリン・チーリン演じるキャラクターの登場は必要だったのか?と思います。そこからの展開がちょっとぼやけました。
ヒロインのライバルとなるキャラは展開上必要かもしれませんが、本作に関してはそれがなくてもラストの展開に繋げること出来たはずです。そこだけが残念でした。リン・チーリンは美しかったのですが…。

しかし2回訪れるクライマックスは1回目は笑いをきっちり取って、2回目は爽やかな感動をきっちり取るあたりは見事です。総じてとても良く練られた脚本だと思います。

脚本は、若手女性脚本家で『七月と安生』も手掛けたシュイ・イーメンや女優のユアン・リーなど女性スタッフによって書かれています。
プロデューサーには『ラブソング』『ウィンター・ソング』などを監督した香港の恋愛映画の第一人者ピーター・チャン。
監督のデレク・ホイはこれまで編集マンとして数々の作品に参加していました。本作が初監督となります。全体のテンポの良さは編集マンである彼の手腕でしょうか?

冷徹でわがままな金持ち男性と、ガサツでオッチョコチョイの女シェフ、そんな不完全な2人のどちらもが魅力的に映る、王道的かつ見事なキューティー映画です。美味しそうな料理の数々も見どころで、お腹が空いている時に観るのは危険ですが、観終わった後は心から満腹になります。
東京国際映画祭だけではなく、全国の映画館、さらにソフト化・配信など、できるだけ多くの人に観てもらいたい作品です。

【追記】
本作は公開時『恋するシェフの最強レシピ』という邦題になりました。