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ギャルとオヤジの入れ替わりコメディだけじゃない『ホット・チック』

ギャルとオヤジの入れ替わりコメディだけじゃない『ホット・チック』
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伝説的コメディ番組、サタデー・ナイト・ライブ

「サタデー・ナイト・ライブ(以下SNL)」という番組をご存じでしょうか?
毎週土曜日の深夜帯に生放送される、コントあり時事ネタありアーティストのライブ出演ありのお笑い番組です。1975年の番組開始以降、この伝説的番組はキャストやスタッフを入れ替えながらアメリカのコメディ界をけん引してきました。

本作はこのSNLで活躍したアダム・サンドラーが製作総指揮を務め、同じく同番組で人気パフォーマーだったロブ・シュナイダーが主演を務めています。


アダム・サンドラーとロブ・シュナイダー。彼らは1991年頃~同時期にSNLに在籍していた同期です。
この時期のSNLはこの二人のほかにクリス・ロックやデヴィッド・スペードなど、どちらかというと体育会系なイメージの男性が多く、まるで男だけのたまり場のような雰囲気でした。

2010年にアダム・サンドラー脚本で公開された『アダルト・ボーイズ青春白書』はこの頃のメンバーが大集合している同窓会映画で、彼らのノリが伺えます。

DVD2枚パック アダルトボーイズ青春白書/アダルトボーイズ遊遊白書 DVD

価格¥3,980

順位143,899位

出演アダム・サンドラー, ケヴィン・ジェームズ, アダム・サンドラー, ほか

監督デニス・デューガン, デニス・デューガン

発行ソニーピクチャーズエンタテインメント

発売日15.06.03

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SNLのメンバーは映画でも共演やプロデュースをするのが恒例ですが、これもアダム製作総指揮・ロブ主演と、その流れにある作品です。ちなみにロブ・シュナイダーの主演映画はすべてアダム・サンドラーが製作を務めています。

ロブ・シュナイダーの得意とするキャラクターを逆手に

ロブ・シュナイダーはSNLの中でもド直球に下品なキャラクターが持ち味です。アメリカのお笑いは笑いどころがわからない、とよく言われますが彼のネタはいたってシンプル。ただただ、ひたすらに下品です(笑)

話しているだけで絶頂に達してしまう「オーガズム・ガイ」や、恋愛に疲れた女性や子供に優しく自身の哲学を語りかける(唯一の欠点は全裸であること)「ネイキッド・センシティブ・マン」など、一目見れば分かるネタなので言葉は必要ありません。まるでサークルの面白い先輩がやりそうなネタばかりです。

オーガズム・ガイ

ネイキッド・センシティブ・マン

そういった下品キャラを確立していたロブだからこそ、学園イチの美女と突然入れ替わってしまうことの衝撃を、より鮮明に印象付けられたのだと思います。全米のティーンたちがゾッとする様子が目に浮かびます(笑)

学園のクイーンだったジェシカが、偶然モールで見つけた伝説のイヤリングの力でけちな泥棒のクライヴ(ロブ・シュナイダー)に入れ替わってしまうところから、本編は展開していきます。

心はイケイケ女子高生のジェシカですが、演じているのはどう見てもコ汚いおっさん。彼がせっせとムダ毛処理に励んだり、ピチピチのチビTを着てお尻を振りながら歩いている様子は正直キモいとしか言いようがありません。

冒頭、モールでジェシカ(このときはまだレイチェル・マクアダムス)がカフェの店員に“上目使い×ホイップクリームを意味ありげにナメる”という合わせ技でドリンク代を奢ってもらうシーンがあるのですが、入れ替わり後もそれをいつもの調子でしてしまいます。
生クリームを意味ありげにナメるおっさん、どう見ても不気味です。

それでも、そんな不気味なロブ・シュナイダーを見ているうちに周囲の友達も私たちも、彼女(?)に愛おしさを感じてしまうから不思議です。外見はおっさんでも自身の誤りに気づき改心していく、ジェシカという魅力的なキャラクターがあってのことでしょう。

わかりやすいギャグだけで終わらないメッセージ

そういったロブ・シュナイダーお得意の分かりやすいユーモアで構成されている本作ですが、映画は決してそれだけでは終わりません。

外見ばかり気にしていたジェシカはそれよりも内面の美しさが大事だと気づき、自身のこれまでの行動を反省します。それまでからかっていた太めの女の子やゴスっ子にお詫びし、元に戻るための協力をしてもらったり、両親にそれまでの生活では気づかなかった“当たり前の幸せがあることへの感謝”を打ち明けたりと、この出来事をきっかけに変化していきます。

最終的にはろくでもない男に振り回されていた親友や、セックスレスに悩んでいた両親を救ったりと大活躍。テレビの前の私たちも、ロブの下品なギャグで笑っていたはずなのに、気づいたら毎日の振る舞いを見つめなおしている自分がいることに気づかされます。

これぞキューティー映画の醍醐味!しっかりとしたメッセージをギャグのなかにさりげなく仕込んでくるあたりに製作側の確かな腕を感じます。アダム・サンドラーの映画は男性・女性どちらかを添え物にすることなく公平な目線で描いてくれる良作が多いのですが、さすがのクオリティです。

発掘された2人の女優、レイチェル・マクアダムスとアンナ・ファリス

そしてレイチェル・マクアダムスとアンナ・ファリス。この二人の才能を発掘したという意味でも、本作は非常に重要です。

撮影当時、レイチェルはこれが映画出演3作目の新人ですし、親友役のアンナもデビュー4年目とまだまだ若手でした。ちなみに彼女たちは撮影中、レイチェル24歳、アンナはなんと26歳。学生役としては、お世辞にも若いとは言えませんがそれぞれ貫禄のギャルっぷりです。

このレイチェル=“ビッチ”、アンナ=“おバカなブロンド”というステレオタイプなキャラクターへのハマり具合は素晴らしく、本作以降の作品にも続いていくこととなります1

レイチェルは2004年に『ミーン・ガールズ』で悪魔のような学園のクイーン・レジーナを演じ、この作品をアメリカでいまも根強いファンを持つ大ヒット作とするのに貢献しました。
このレジーナというキャラクターは本作のジェシカを何倍も邪悪にしたような役なので、ある意味で『ミーン・ガールズ』は本作の延長線上に位置する作品とも言えそうです。

近年のレイチェルは『恋とニュースの作り方』や『君への誓い』、『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』のような純粋でひたむきなヒロインを演じているイメージが強いですが、ホームグラウンドというか、何よりも輝くのはこういった憎らしい役のときだと思います。

そしてアンナは本作以降も、もともとデビューのきっかけとなった『最恐絶叫計画』シリーズでキャリアを積みながら『キューティ・バニー』や『運命の元カレ』などで天真爛漫でおバカなキャラクターを演じ、その地位を確立しました。

しかし演じた役とは裏腹に、この2本で彼女は主演と同時に製作総指揮も兼任。演じるキャラクターとは正反対の才女っぷりを見せつけ、現在もキューティー映画の表と裏、両方の面から作品を支え続けています。

こういった現在も第一線で活躍している女優たちがメインを固めていることも、本作の面白さを支える柱となっていると言えるでしょう。

ちょっとホロリとさせるサブストーリー

最後に、本編中にちょくちょく挟み込まれる、友人グループの一員である黒人の女の子リンリンの話も泣かせます。

見た目は黒人でありながら韓国人の母(しかも過保護でしょっちゅう学校に押しかけてくる)を持ち、親を疎ましく思っている彼女は、劇中で自身のルーツと向き合い自分の生まれに誇りを持つまでに成長します。

ラスト、卒業式のシーンで彼女はチマチョゴリで登場し、そんな娘を見ながら母親が「お父さんも忘れないでね!」と声をかけるのですが、母親の隣に座っているのはユダヤの伝統的な帽子(キッパー)をつけた男性。「韓国の血だけじゃなかったんかい!」とツッコミを入れてしまうなんてことないギャグシーンですが、これには実はちょっと深い意味が。あくまで推測ですが、これはおそらくロブ・シュナイダー自身のルーツを反映させたものではないかと思うのです。

というのも、彼はフィリピン人の母親とユダヤ人の父親を持つ生まれで、SNLでも初のアジア系レギュラーキャストとして知られていたから。エキゾチックで形容不能な見た目の彼は、ある時はイタリア人に扮していたかと思えば次の瞬間にはウディ・アレンのアジア人妻(笑)になっていたりと、さまざまなキャラクターを演じていたオールマイティカードでした。
自身のルーツに苦悩するリンリンは、もしかしたら知られざるロブ自身の気持ちを代弁していたのかもしれません。本当の美しさとは、自分自身に誇りを持つことなのかも?そんなことを考えさせられる作品です。

  1. 2012年に公開された『パッション』では出世のためには手段を選ばない女上司(これもビッチ)の役を好演。本作から10年経っても、かつてのキレが健在であることを証明してくれました。 []