Home Review P.S. アイラヴユー

P.S. アイラヴユー

P.S. アイラヴユー
0

[cptr]
原作はアイルランドの元首相の長女が書いたものです。原作では舞台がアイルランドで、映画にもあった主人公達が旅行する先がスペインだったり、手紙の届き方も最初に10通が束であって順番に封をあけていくということになっていたり、主人公の周囲の人たちの性格描写が細かかったり、と映画との相違点が多くあります。

お話自体は、最愛の夫に旅立たれた女性の、悲しみを受け入れた上で生きていく活力を見出す「悲しみから再生」への課程を、夫の生前の手紙によって引き出していくという展開で、ロマンスとして秀悦な設定です。
女性視点で感覚的に物語が進みますし、シーンごとの泣かせポイントの作り方がうまい。
女性は感情移入して感動に浸れると思います。

それを彩る劇中の音楽が素晴らしいです。挿入歌もそれぞれいいのですが、何よりオリジナル楽曲が素晴らしい。柔らかく繊細な旋律が画面をフワッと包み込みます。感動シーンは全て音楽の効果によるものと言っても過言ではありません。

歌については劇中、回想シーンで夫婦がカラオケをやるところがあります。
アメリカのカラオケは、日本ではもうほとんどみかけない舞台にあがってみんなの前で歌う形式です。
ジェラルド・バトラー演じる夫ジェリーがノリノリで「Mustang Sally」を歌います。この曲、Wilson Pickettのオリジナルと思われがちですが、実はSir. Mack Riceという人がオリジナルです。

次に旦那にあおられる形で渋々ヒラリー・スワンク演じる妻のホリーが歌うのが、Princeの「Gett Off」
https://youtu.be/byFlaDWngns
余談ですが、この曲、プリンスの叫び声からスタートするのですが、この叫びが色んな曲でサンプリングされまくっていまして(笑)、それを特集したサイトがこちらに。
本編の実際のカラオケシーンです。

しかし、なぜ「Gett Off」?歌詞の内容をホリーの台詞にしたかったとしても、もっと他にも曲あるだろうに。

演技に関しては、キャシー・ベイツ!
夫に逃げられて2人の娘をもつ母親をキャシー・ベイツが絶妙に演じていて、この映画の格調をワンランク上にしています。

家族で食事をするシーンで、キャシー演じる母親が、いつまでも悲しみにくれる娘のホリーに、自分の経験も踏まえて次のステップに進むことを諭すシーンがあります。そのとき、ホリーの妹が母親と姉の会話の雰囲気で料理を出せず、お皿を持ったまま待っているところもいいのですが、ここでのキャシー・ベイツの感情を抑えた台詞の芝居が素晴らしいです。

ラスト近く、娘の夫の故郷であるアイルランドを訪れたとき、思わずこの母親が出す笑い声はストーリー上とても重要です。これは映画を見るとわかりますが、ただの笑い声ではダメなんです。そこをキャシーが見事に演じていてとても感動しました。

ホリーたちが訪れる、夫ジェリーの故郷、アイルランドの風景を雄大にとらえたカメラが素晴らしいです。

と、感動シーン、演者、音楽やカメラなどのパーツとそれなりに揃っているのに、全体を通した映画としては全然ダメな凡作でした。とにかく編集・構成がひどい。

主役のホリーが「夫の先立たれて悲しむ若い未亡人」ではなく、「夫に先立たれて精神をやられた女性」にしか見えませんでした。ヒラリーの演技がヒステリックで一本調子なのもいけませんが、ホリーの言動が「夫に先立たれたから」という理由だけでわがままし放題、それを反省するでもなく、自分に都合よく仲直りしたりと、とにかく主人公なのに鼻につきます。
こういう映画の構成では、夫との思い出と同時に新しい一歩への布石を平行して描かないといけないのに、夫との思い出に時間を割きすぎています。その結果、後半、ホリーが独り立ちするシーンがあまりにご都合的に見えてしまいます。

オープニングでホリーとジェリーの口げんかを延々と描写します。
このシーンが単にわめき散らし合っているだけでうるさくて不愉快だし長い。あまりの長さに
「あぁ、ラストに『アグリー・ベティ』のシーズン2の1話ラスト1みたいなことをやるんだな。そうだな、この映画は『旦那が死んだあと』がドラマの始まりだもんな」
と思ったのですが、普通にそのあとタイトルが出ました(笑)

その後、妻による旦那との回想シーンが何度かあるのですが、どれも無駄に長い。
監督は「マディソン郡の橋」の脚本家なんですが、旦那との思い出を普通に回想シーンとして、何の工夫もなく延々と見せるのは脚本家らしく、脚本を重視しすぎて思い切った演出や編集が出来ない典型です。

ラスト近く、ホリーを想っているハリー・コニック・Jr演じるバーテンのダニエルが、いつまでも亡き夫の手紙に囚われているホリーに対して「旦那の手紙にもし『新しい恋をしろ』と書かれていたらその通りにするのか!君はいつまで手紙に束縛されているんだ!」と怒るシーンがあります。

その後ホリーはダニエルと再び会い、亡き夫からの最後の手紙をダニエルに読ませます。その手紙には「新しい恋をしろ」と書いてあって、その手紙の通りにホリーはダニエルにキス。ダニエルはホリーを抱きしめます。
ダニエル!おまえ、「手紙に囚われるな!」と啖呵切っといて、自分に都合がいいと手紙の言いなりかよ!(笑)

日本公開版ではエンディングを徳永英明の曲に差し替えていました。DVD版ではどうなるんでしょうか?
ラストに日本語の歌が流れるのは雰囲気的にかなり厳しかったです。

  1. 『アグリー・ベティ』のシーズン2の1話のラストの仕掛けはシーズン1を全て見てからでないと効きません。ネタバレしてしまうと(未見の人は読まないでください)、ベティのお姉さんの旦那がシーズン1の最終話でコンビニ強盗に撃たれてしまいます。シーズン2の1話では旦那は家のベッドの中に包帯姿で寝ており、お姉さんとのイチャイチャシーンをドラマの中に随時挟みます。シーンのたびに夫はベッドを出ようとします。お姉さんはまだいいじゃない、まだ完治していないんだから、と旦那を引き止めます。そしてラスト、実はこのベッドでのシークエンス全てがお姉さんの妄想で、ベッドの横には旦那はおらず死んでいた、というのが分かります。素晴らしい演出です。必見です。 []