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第29回東京国際映画祭:この世界の片隅に

第29回東京国際映画祭:この世界の片隅に
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18歳のすずさんに、突然縁談がもちあがる。良いも悪いも決められないまま話は進み、1944(昭和19)年2月、すずさんは呉へとお嫁にやって来る。見知らぬ土地で、海軍勤務の文官・北條周作の妻となったすずさんの日々が始まった。
夫の両親は優しく、義姉の径子は厳しく、その娘の晴美はおっとりしてかわいらしい。隣保班の知多さん、刈谷さん、堂本さんも個性的だ。
配給物資がだんだん減っていく中でも、すずさんは工夫を凝らして食卓をにぎわせ、衣服を作り直し、時には好きな絵を描き、毎日のくらしを積み重ねていく――。(公式サイトより抜粋)

原作:こうの史代
監督/脚本:片渕須直
監督補/画面構成:浦谷千恵
キャラクターデザイン/作画監督:松原秀典
音楽:コトリンゴ

キャスト

のん
細谷佳正
稲葉菜月
尾身美詞
小野大輔
潘 めぐみ
岩井七世



原作は、第13回文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞したこうの史代の同名マンガです。クラウドファンディングを使い、6年かかって作り上げました。
監督の片渕須直は名作劇場「名犬ラッシー」や『アリーテ姫』『マイマイ新子と千年の魔法』の監督をしています。考証を調べに調べて、こだわった映像処理で丁寧にカットを積み上げて仕上げていくタイプの監督さんです。『魔女の宅急便』は当初、ジブリで若手スタッフで作るという企画で監督は彼が行う予定でした。

さて『この世界の片隅に』ですが、これは1940年代にいた普通の女性の日常を描くお話です。そして夫婦、家族のお話です。これらをドジっ子ながら芯のあるヒロイン、すずの少女時代から結婚、新しい家族を獲得するまでの成長を通して描かれていきます。

暴れん坊の兄、かわいい妹に挟まれた次女のすずは、広島市で両親の海苔作りを手伝っています。
冒頭、ちょっと不思議な生き物たちとすずが出会う描写があったりするので、一瞬、最近の日本を舞台にしたアニメがよくやる「日常に潜む不思議な生き物」の話かと思ったりもするのですが、あくまでも多感な少女の頃のすずの目から見たもの、感じたもので実際は異なります。この不思議な生き物たちが、後にうまく劇中に登場して成長したすずと再会します。

このあたりの日常と地続きのファンタジー感は全体を通して一貫しており、絵が描くのが好きなすずの心象風景として彼女によって描かれた絵と現実が一体になるシーンがありますが、そこはアニメならではの表現力でとても詩情豊かなもの(たとえそれが戦時中の重いシーンであっても)にします。

劇的な出会いなどではなく、何となく嫁入りしたすずは広島から呉にやってきます。口少ないながらもすずを理解し愛する夫と夫の両親はすずを優しく迎え入れますが、義姉が当時では最先端の自立した女性でもあったことから、ボーッとしたすずは怒られてばかり。その関係に悩んで10円ハゲができちゃったりします。夫を亡くし夫の実家と折り合いの悪かった義姉が娘と共に実家に戻り、すずは義姉の娘で、軍艦の知識に詳しい晴美と仲良しになります。

ヒロインのすずがボーッとしたタイプで、劇中でよく失敗したり怒られたりします。そのたびに、首をかしげて目が
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になって「アチャ〜」って顔をするんですが、これがとてもホノボノしていて実に可愛らしい表現となっていて、この映画を特徴づけていると思います。

だけどすずは、単にボーッとしてるだけはありません。家を守る者として家事を行い、自分で考え悩み行動します。だけどどこか抜けてて、すぐ「アチャ〜」となります。そんな「アチャ〜」なすずを周りも笑って受け入れます。生活は貧しいながらも、ほのぼのとしたエピソードによって、戦時中の日本の家族の「アチャ〜」な日常が描かれます。

時代的にどうしても、戦時中の描写が多く出てくるわけですが、映画で描かれるのは、あくまでもそこを生きている市民たちの日々の生活です。
配給で食料が減れば何とか工夫し、嫁いできた軍艦のいる風景を新しい自分の故郷と強く感じ、水兵となった幼馴染との再会で夫も享受する2人っきりの夜、迷い込んだ遊郭でのある女性との出会い、夫との初めての大げんかなど、現代の我々とはちょっと状況でありながらも、でも現代の我々でも共感するエピソードが多くでてきます。

徹底した考証によって描かれた当時の呉や広島での生活を通じて、観客はいつしかすずさんとその一家の日常を、とても心地の良いホームドラマのように眺めていきます。しかしそのホームドラマも当時の状況的に、強制的に変化を強要されるわけですが。

このあたり、近年、諸外国のインディペンデント系キューティー映画が積極的に取り上げている「女性の目から見た戦時中の日常やロマンス」とリンクする部分があるのも、偶然とはいえ面白いです。共通するのは、意外と知られていなかった当時の市民の日常生活の再現だったり、歴史的な大きな事件を背後にして描かれる市井の人たちだったり、戦時下での女性たちの考え方や行動だったり。
そういう意味ではアニメ映画でありながら正当な時代物キューティー映画になっています。

クラウドファンディングなどの効果もあり、ネットではすでに行われた試写の感想で映画ファンや評論家などから絶賛の嵐ですが、それとはまた別に、キューティー映画好きの人には「日本産のキューティー映画」としてぜひ観てほしい作品です。
(アニメ技術論を書きたいのを一生懸命封印して、何やら偉そうにそれっぽく書き連ねてみたのですが、この作品のキューティー映画としての魅力を上手く伝えられません…(><)アチャ〜)。