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人気TVシリーズが秀悦な音楽映画になった『ハンナ・モンタナ/ザ・ムービー』

人気TVシリーズが秀悦な音楽映画になった『ハンナ・モンタナ/ザ・ムービー』
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大ヒットTVシリーズ『ハンナ・モンタナ』の劇場版です。アメリカでは2009年春に公開され、大ヒットを記録しました。
実に素晴らしい音楽映画だと思います。ぜひオリジナル音声でも観てもらいたいです1


この映画の元となったTVシリーズ『ハンナ・モンタナ』は1話30分のシチュエーション・コメディ(通称:シットコム)で、ドタバタメインです。アメリカでは大ヒットし社会現象にまでなりました。
このドラマがこれまでのヒットと異なるのが、ドラマのキャラクターとして実際にライブを行い、ライブで人気に拍車をかけたことです。
また、劇中の楽曲は80年代のヒットメーカーたち2が担当しており、どことなく80年代の匂いのする楽曲で、親の世代と音楽を通じてシンクロできる仕組みにもなっていました。
ディズニーがこれまでずっとやってきたトウィーンズ向けビジネスの最終完成系です。

マイリー一家のリビングと兄ジャクソンのバイト先である浜辺のカフェと学校という3つの舞台を中心に、普段はドジでオッチョコチョイ、でも実は人気アイドルのハンナ・モンタナという秘密を持つ女の子のマイリーと、その秘密を知っている親友、男勝りでスケボー少女のリリー、お調子者で女ったらし(と自分で思っている)のオリバー、親としてマイリーを優しく見守るパパのビリーとボケボケの兄のジャクソンなど、個性的で漫画っぽいメンバーたちが、さまざまなエピソードを繰り広げます。
ときにはちょっといい話があったり、各話バラエティに富んでいて見てて飽きません。

このシリーズ、ゲストも豪華です3

さて、そうしたシットコム・シリーズの劇場版映画を作るにあたって難しいのが、マンガチックなキャラクターや舞台をリアル化させて上質なドラマを作ることです。特に今回の映画のテーマが「自分自身を見つめ直し、自分を取り戻すこと」ですから、TVシリーズの『ハンナ・モンタナ』のドタバタな世界観でやるとリアリティがなくなってしまい、テーマの説得力を失います。
だからといってTV版のキャラクターや番組の楽しい雰囲気を無視することも出来ません。TV版の雰囲気が大好評だったからこそ出来た映画版です。TV版のファンを納得させつつ、映画の真面目なテーマも見せるのはなかなか大変です。

そこでこの映画では、TVシリーズの楽しくコメディな雰囲気から映画用のリアルな雰囲気への移行が、オープニングから絶妙に行われていきます。さらに映画の進行とともに徐々にTV版の雰囲気を消して行き、舞台がテネシーに移る頃には完全に映画の雰囲気になっています。実に巧みな構成だと思いました。

オープニングが素晴らしいです。
まず、ハンナのコンサート会場でのマイリーとリリーのドタバタで始まります。このあたりはTV的です。
そしてマイリーは楽屋でハンナに変身。変身の工程も丁寧でリアルです。
ここでTV版ならマイリーがハンナになった時はパパとリリーも変装しますが、その設定がなくなっています。ハンナのライブシーンがリアルなのに、舞台裏にテンガロンハットにちょび髭(パパ・ビリー)、アニメキャラのような原色カツラのキャラクター(リリー)がいても浮きますからね。
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(これがTV版の雰囲気です。シットコムではこれで全然OKなんですけど、映画ではさすがに…(笑))

そしてハンナ・モンタナのライブシーンに続きます。曲はTV版の主題歌でもある「The Best Of Both World」。このシーンのライブ会場と観客は『ハンナ・モンタナ ザ・コンサート3D4』の映像から流用しています。
ライブシーン自体は映画のワンシーンとして作られた偽物です。しかしライブでの観客のハンナに対する熱狂は本物です。映像を流用によって、普通の映画のライブを模した撮影シーンより、実に説得力のあるライブシーンになりました。
キャットウォーク上のハンナ・モンタナとダンサーたちなどの映像を合成していますが、言われなければ絶対分からないと思います。

そしてライブシーンからそのままPV撮影シーンに変化します。ここでTVっぽいギャグをちょっと織り交ぜます。マイリー・サイラスって表情が実に多彩です。特にギャグの時のアイドルとは思えないくらい崩した顔が魅力です。それがここで発揮されています。
そしてPV撮影終了して、いよいよ映画の世界が始まる…という風になっています。

ちなみにこの一連のオープニング、スタッフのタイトルロールにも注目です。絶妙に画面の動きやキャラクターの動きに合った文字の出方、消え方をします。この辺はヒラリー・ダフ主演、『リジー・マグワイア・ムービー』のオープニングを思い出します。ただし、あちらの方がリジーのアニメキャラもあって、もっとアニメっぽかったですが。

お店で靴を巡ってハンナ・モンタナと死闘を繰り広げるのはタイラ・バンクス。本人役で登場です。
身長の高いタイラが靴を高く掲げ「ホラ、届かないでしょ?」とばかり舌を出してマイリーを小馬鹿にするシーン、マイケル・ジャクソンの「Black Or White」に出ていた時のタイラ・バンクスを思い出しました(笑)
マイケル・ジャクソンの「Black Or White5」の最後の方で、どんどん人の表情が変化して行く有名なシーン6で2人目、丸坊主みたいに短い髪の女性が舌をベーと出しますが、それが若きタイラ・バンクスです。

その後のマイリーの親友リリーの誕生会シーンではTVの設定であるリリーの得意なスケボーや、オリバーとリコとギャグシーンを登場させTVシリーズファンへのサービスも忘れません。そうしながらも物語は徐々にマイリーと家族に焦点を絞っていきます。

そして舞台はテネシーへ。今回マイリーの相手役、ルーカス・ティル演じる幼なじみのトラヴィスの登場シーンで、カメラはロングショットやスローモーションを使って雄大な大地を美しく観せてくれます。素晴らしいです。その後映画は前半よりさらに自然でリアルな世界観の中、テーマ性のあるドラマが進行していきます。

このTV版から映画版へのイメージの転換で一番キャラが変わったのが兄のジャクソンです。
それなりにギャグシーンが用意はされているもののTV版ほどハチャメチャでもなく、映画での彼は「ちょっと間の抜けた妹思いのいいお兄さん」風に描かれています。

そしてこれが映画のラストで効いてきます。ネタバレになるので詳しく書きませんが、TV版ならちょっと似合わない仕草を映画版のジャクソンはやるのですが7、それが決まるんですよ~。
ぜひ映画ラストのジャクソンに注目してください。ラストのジャクソンがこの映画を全部持っていったと個人的には思っています。

この映画、音楽シーンが随所に用意されそのどれもが実に素晴らしいのですが、中でもキャラクターが歌うシーンでの映像と曲のシンクロが実に巧みです。
楽曲はCDの音源と同じスタジオ録音の音です。なのに画面では実際に歌っているような臨場感があります。これは映画の中での演奏シーンの演奏者(楽器)の構成が、音源のものと同じようにしているためだと思います。劇中でのライブシーンは全部そうなっています。

例えば後半で感動的に歌われる「The Climb」。この音源にはオーケストラ(弦楽器)の音が重要な位置を占めています。演奏シーンと音源のシンクロをおざなりにする映画の場合、画面にはバンドだけなのになぜか音ではオーケストラの音が聞こえてきます。そういう映画多いですよね。

しかしこの映画では「The Climb」の演奏の時に、ちゃんと地元の高校のオーケストラが壇上にいるんです。なぜ?いつ段取りを??細かいことは気にしないでおきましょう(笑)そんなことは実に些細なことです。
このオーケストラが壇上にいるせいで、映画の中で「The Climb」が実際に演奏されているかのように感じることができるのです。しかもちゃんとオーケストラの音が鳴る時にカメラがオーケストラを捉えるので、音楽と画面のシンクロがとても素晴らしく、音と画面の相乗効果でこのシーンは盛り上がり、より感動的になります。
https://youtu.be/vmKsCMgROCQ
ギターソロ後、コンサートマスターの女の子がバイオリンを強く弾き始めるカットが実にかっこいいです。曲中、1カットだけ撮影カメラが写り込んでいますが…ご愛嬌(笑)

ちなみに中盤のハイライトとも言えるカントリー調ヒップホップな曲「Hoedown Throwdown」、踊りの中にマイリーの実の姉と妹もいます。妹のノラはマイリーのおばあちゃん役マーゴ・マーティンデールが写るカットにいます。金髪で丸顔の姉のブロンディ・サイラスはマイリーがステージから降りてみんなと踊るとき、右後ろにいます8
hannah_sisters

まだまだ書き足りないくらい、この映画は色々な側面を持った、久々に何度観ても飽きない素晴らしい音楽映画です。
アイドル映画だと思って馬鹿にすると痛い目にあいます。

そうそう、最後のスタッフロールと一緒に流れる映像にも注目してください。
出演者ほぼ全員が「Hoedown Throwdown」を楽しそうに踊ります。ビリーパパの相手役、メロラ・ハーディンやタイラ・バンクスが弾けて踊り狂う姿や、なぜか踊る姿を望遠で撮影されているヴァネッサ・ウィリアムズ(隣で踊ってる人は誰?振付師?)も面白いのですが、注目はライブセットからせりあがってきてダンサーを従えて踊る黒い帽子をかぶったおじさん。
監督のピーター・チェルソムです。妙にうまい(笑)

  1. 2010年2月公開時、字幕版は公開されず吹替版のみが公開されました。オリジナル音声で見るにはソフトの発売を待たなければなりませんでした。 []
  2. 主題歌など多くの楽曲をロビー・ネヴィルが担当 []
  3. カントリーの大御所ドリー・パートン、ヘザー・ロックリア、HSMのアシュレイ・ティスデイル、マイリー同様人気アイドルのセレーナ・ゴメス、ジョナス・ブラザーズなどなど []
  4. ライブ映像に関しては誰も求めてないのに勝手に大長文の感想文を書いております。こちらに掲載しています。もしよろしければどうぞ。 []
  5. 個人的に、ゲストの豪華さ、各民族の古典ダンスを取り入れるダンスアイディア、当時の最新特撮技術の活用含めてMJの中でも最高傑作のPVだと思っています。 []
  6. モーフィングというCG技術を使っています。 []
  7. ネタバレ:マイリーに向かって指をL(Loser:負け犬のこと。相手を馬鹿にするときに使います)の字に作ります。そうしながらも何とも言えないお兄ちゃん的な絶妙な笑顔で微笑みます。 []
  8. imdbにはブロンディのいる位置が「マイリーの左」と書かれていますが間違っています。 []