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ヘアスプレー

ヘアスプレー
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ミュージカル映画は正直いって苦手「でした」。
歌や踊りのパフォーマンスやそれを捉えるカメラワークは観ていて楽しいものの、やはり話の流れの途中で唐突に歌われるのはチョット…
とにかく肌に合いません「でした」。

この作品も、いくらジョン・トラボルタが女装しようが、ミシェル・ファイファーとトラボルタが『グリース2』以来のミュージカル共演をしようが、キューティー映画っぽくなければ映画館に足を運ばなかったと思います。

そんな人間がこの映画を観てどう変わったかのドキュメントです(笑)

映画のオープニングで、カメラは空から降りてきて60年代のアメリカの街の朝の風景を映しだします。
カメラが街に近づくにつれ犬の鳴き声、車のクラクション、自転車のベルなど、街が動き出そうとする時の様々な音が聞こえてきます。
その様々な雑音が絶妙にリズムを成してイントロの音楽となり、オープニング曲のメロディーへと繋がります。

ここの音響演出でガーンとやられました。見事です。

そしてカメラは主人公トレーシーが寝ているベッドへ。
主人公のデブッチョ、トレーシーが起きて歌が始まります。ミュージカルらしい始まり方です。
そして歌の最初のサビのところで、トレーシーがつけたTVの中の人の台詞「Good Morning Baltimore~」とサビの歌詞を微妙にシンクロさせるところでさらにガーン!!

まいった~~~!!!!なんかこの映画いいじゃないか~!!!

映像と歌をシンクロさせる演出が実に映画的です。これは「ミュージカル」ではなく「ミュージカル映画」なんだと強く印象付けられました。
さらに、トレーシーは歌いながら外に出て学校に向かいます。変質者役でオリジナル版の監督ジョン・ウォーターズを出すなんて、とてもシャレたリスペクトの仕方!
感動しました。

もうこのオープニングは圧巻です。こんなにテンションが高く感動的なオープニングは久々です。

歌の最後のほうで遅刻しそうなトレーシーを乗せてあげるトラックの運転手の顔のアップを、トレーシーが荷台から降りるときと降りて手を振るときの2回、わざわざインサートします。とても映画的演出です。このトラック運転手役の人がスタッフなのか何かのジョークかわかりませんが、ここでも、この映画が舞台のミュージカルをロケーションで撮っている映画ではないということを印象づけています。
話の進行はミュージカル的でもカットの積み重ね方が実に映画的なのです。
(ちなみにこの歌のラスト、主人公が歌う後ろで本を落とす学生にわざわざ効果音を付けていますがなぜ??どういう意味が隠されているのでしょうか??)

監督のアダム・シャンクマンはこの映画以前に、ジェニファーロペス&マシュー・マコノヒー主演のキューティー映画、『ウェディング・プランナー』を撮っていました。元々振り付け師で、初監督作品の『ウェディング…』でも野外映画のシーンで往年のダンス映画を映したりしてミュージカル映画へのリスペクトをしていました。
『キャプテン・ウルフ』も監督してたけど、ぶっちゃけ演出は凡庸だと思ってました。
今回は見事にこの人の起用がはまったと思います。
ちなみにアンバー役のブリタニー・スノウは『キャプテン・ウルフ』がデビュー作です。

この映画は1988年公開のオリジナル版があり、それをミュージカル化しそのミュージカルを映画化したわけですが、オープニングの変質者役のジョン・ウォーターズをはじめ、婦人服屋のピンキー氏にオリジナル版でお父さん役を演じたジェリー・スティラー1、ラストのダンスコンテストのシーンにいるエージェントの一人にはオリジナル版のトレーシーを演じたリッキー・レイクがいるなど、オリジナル版への愛情が隅々に行き渡っていてとても素晴らしかったです。

同時に音楽はミュージカル版のマーク・シェイマンを起用し、音楽は基本的にミュージカル版をリスペクト。映画独自の展開をもとに音楽も追加されたり編曲されなおしたりしています。

余談ですが、オリジナル版の監督ジョン・ウォーターズも、リメイク版の監督のアダム・シャンクマンも、いいところ出の坊ちゃんでゲイという共通点があります。

アダム・シャンクマンのダンス映像演出はとてもかっこよく、特にラストの大団円のときに歌われる「You Can’t Stop the Beat」2の、クイーン・ラティファが歌い終わって退場した後のダンスを写す1カットは必見です。
女性ダンサーを高く持ち上げている手前に、低い位置から切れのある回転をする男性ダンサーを2人配置し、それを低位置から撮っている短いカットなんですが、パッと差し込まれることでスピード感ある映像がいいフックになっていてとてもかっこいい。2つの異なるスピードのダンスを1フレームに収めることで、立体的で多彩な動きとスピード感(高揚感)を感じる見事な画を作っています。

ちなみに「You Can’t Stop the Beat」シーン、衣装にも注目です。
トレーシーが着ているのは白と黒。さらに髪はヘアースプレーで固めていません。人種差別を取り払い、みんなと同じ外見を気にしなくなったトレーシーの自由=成長を表わしています。
そしてアマンダ・バインズ演じる友達ペニーの衣装は、このシーンの前に、ペニーが家から逃げ出すときに使ったカーテンで作られています。

音楽に関しては、当然のことながら文句なし、捨て曲なしです。
オープニングの「Good Morning Baltimore」からラストの「You Can’t Stop the Beat」まで、楽曲の完成度がどれも恐ろしく高く、ロックンロール、ゴスペル、R&Bなど60年代サウンドの懐かしい感じがするものの今風のリズムも巧みに組込まれていて(特にベースラインは今風)、テンションが高くノリがいいです。 ストリングス・アレンジがとてもきれいで映画音楽的。
これが純粋に60’sミュージックのオンパレードだったら観客を選んでしまったかもしれません。

音楽でも遊びがあります。
ジョン・トラボルタとクリストファー・ウォーケンの夫婦(笑)が優雅に激しくそして優しく踊るシーン3の曲「(You’re) Timeless To Me」では、ラストのほうで有名なシャンソン「バラ色の人生」4のメロディーがスーッと入ってきます。
このシーン、往年のMGMミュージカルの再現を意図した5、とても素晴らしいダンスシーンです。ちょっとあおり気味のアングルで夜空の星と流れ星を合成するあたりも実にニクイ。

悪役を一手に引き受けるミシェル・ファイファーがかっこよすぎです!! 歌のシーンの笑い方とか存在全てがサイコ~です!
キャット・ウーマン役もかっこよかったけど、若かりし頃、審査員と寝てまでして獲得した「ボルチモア蟹女王6コンテスト」を今でも自慢する小市民的なビッチTVプロデューサーを貫禄十分に美しく演じていました。

公開前から特殊スーツ&メイクで話題になっていた母親7を演じるジョン・トラボルタがただの出オチではなく、ちゃんと演技、歌、踊りとプロの芸をきっちり披露して意味のある出演になっていたのには驚きました。

ジョン・トラボルタ演じるお母さんが娘に引っ張られてずっと篭っている家から出て、徐々にはじけていく「Welcome To The 60’s」が歌われるシーンは、トラボルタの演技(ダンスではなく演技)が素晴らしく、さらにここではじめてトラボルタが歌い踊るのですが、そのタイミングも歌の内容、そのシーンの内容と相まって実に感動的。

作品のテーマは「偏見をなくす」ですが、自分もこの映画でミュージカル映画への偏見がなくなりました。
映画館で観てよかった。本当に観て良かった。
大傑作です。

とにかく、この映画は恐ろしくハイテンションでテンポよく、見終わった後の幸せな恍惚感は異常だと思います(笑)

  1. ベン・スティラーの父 []
  2. とにかくこのシーンは凄い。悔しがるミシェル・ファイファー、ペニーの母親アリソン・ジャネイのコケなど含めて登場人物全員の見せ場があって、10分近く盛り上がり続けるなんてそうそうありません。 []
  3. トラボルタがウォーケンに吹き付けるアイロンの煙のCGの出来は酷いですが(笑) []
  4. パリ出身のシャンソン歌手、エディット・ピアフの代表作。 []
  5. 2人が燕尾服とドレスで踊るところはフレッド・アステアやジーン・ケリーの頃を彷彿とさせます。 []
  6. ボルチモアは蟹が名物です。 []
  7. 『ヘアスプレー』ではお母さん役は男性が演じるというのがお約束になっています。 []