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物語全てが濃厚で華麗な”前フリ”の『ボヴァリー夫人とパン屋』

物語全てが濃厚で華麗な”前フリ”の『ボヴァリー夫人とパン屋』
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お笑いの「前フリ」と「オチ」

お笑いには、お客を笑わせる前段階として「前フリ」と呼ばれる部分があります。この「前フリ」が巧妙に何段階にも積み重なっていくと、構成されている「ネタ」は最後の「オチ」のところでドカーンとお客さんから大爆笑を取ることが出来ます。
お客さんがみんな大爆笑するというのは、最後でお客さんが送り手の意図を理解したからこそ起こるものであり、心情的に安心からくるものです。


映画でも、最後に大どんでん返しや感動のクライマックスに持っていくためには、構成として巧妙に伏線を張ったり、キャラクターたちの関係や心情を描くなど、エピソードをラストまで積み重ねていきます。

『ボヴァリー夫人とパン屋』は、お笑いとしての「オチ」を作り出すため、とても濃厚な内容で「前フリ」を映画的に構築していきます。全てはラストシーンのために真面目に真剣に官能的な映画を作り上げています。

そしてそれが最後「前フリ」であることにわかった時、観客はそこで初めてアンヌ・フォンテーヌ監督や原作者で脚本も担当したポージー・シモンズほか、この映画に関わったスタッフ・キャスト全員にイタズラを仕掛けられていたことに気付きます。
とても濃厚で官能的で美しい、そして何より、とっても楽しい映画です。

古典文学を使ったグラフィック・ノベル原作

原作は女流イラストレーター、ポージー・シモンズの、1999年に出版されたグラフィック・ノベルです。

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イギリス人のポージー・シモンズは現在69歳。イギリスの大衆紙サンの挿絵や新聞マンガでキャリアをスタートさせ。近年はグラフィック・ノベルの他、絵本も執筆しています。

こちらがその絵ですが、日本のマンガに通じるデッサン力とデフォルメ、絵の構図は素晴らしいです。イラストがすでに映画の絵コンテに見えます。
ヒロインのジェマ・ボヴァリーの造形は大きな白目に小さな瞳という”三白眼”です。彼女にとっての男を惑わす美人は”三白眼”なのでしょうか?「タマラ・ドゥルー」のヒロインも三白眼でした。
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ポージー・シモンズは古典文学をネタにした内容が好きのようで、やはり同名グラフィック・ノベルから映画化された『タマラ・ドゥルー~恋のさや当て~』(未ソフト)でも作家ネタがありました。
こちらの映画には今回のヒロイン、ジェマを演じたジェマ・アータトンが出演しています。どちらも男を惑わす官能的な女性の役です。

官能的に「ボヴァリー夫人」を現代で再現しようと試みる映画

そして物語の構造自体も映画では、客観視点の原作を整理し、ジェマ夫人を見つめる隣人のパン屋マルタンの視点を中心に構成され直され描かれています。この構造が「ボヴァリー夫人」を現代で描く上で効果的でした。さらにこの物語構造自体がラストにひっくり返され、「前フリ」としてとても活きてくるのです。

たどたどしいフランス語を話すイギリス人若妻ジェマに「ボヴァリー夫人」を勝手に重ねて、1人行末を心配するパン屋マルタンの視点はストーカーに近い変質的なものがあります。マルタンを演じたファブリス・ルキーニが作り出す、寡黙で真面目ながらどこか偏執的でお人好しの人物像は、この映画にある種の緊張感を与えてくれます。これも巧妙な「前フリ」の1つです。

「ボヴァリー夫人」と「アンナ・カレーニナ」

その『ボヴァリー夫人とパン屋』の驚愕のラスト、詳しくは書けませんが、そこで使われるのは「ボヴァリー夫人」と並ぶ、ロシア文学の不倫ものの古典「アンナ・カレーニナ」です。
もし「アンナ・カレーニナ」を知らない方は『ボヴァリー夫人とパン屋』を観る前に、基本設定だけでも知っておいたほうがいいと思います。
キーラ・ナイトレイ、ジュード・ロウ出演の映画版もいいですよ。

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最後に、こちらがオリジナル、フローベール著「ボヴァリー夫人」です。
本作はとてもうまく出来ていて、「ボヴァリー夫人」を知らない人が観てもちゃんと分かるようになっています。そういう意味ではヨーロッパ的で上質なパロディー映画としての部分も兼ね備えています。

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