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魔法にかけられて

魔法にかけられて
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2006年前後、ディズニーは経営の建て直しのためキューティー映画の製作を抑えてきました。
そのディズニーが久々に出してきた大型キューティー映画は、これまでのディズニー・アニメのプリンセス物自体を実写でパロった作品ですが、愛情あふれるオマージュが細かく色々配置されていて、実に楽しい映画になりました。

結果的には映画は大ヒット、主題歌他3曲がアカデミー賞にノミネートされました。

監督のケビン・リマは元々ディズニー・アニメの監督で、実写映画は『101匹ワンちゃん大行進』の実写版続編『102』を監督しています。
VFXにはストップモーション・アニメの第一人者フィル・ティペットのティペット・スタジオを中心に、Wetaデジタル、CISハリウッドの名が連なり、特殊メイクはマイケル・ジャクソンの「スリラー」『狼男アメリカン』などベテランのリック・ベイカー。
音楽は『リトル・マーメード』『美女と野獣』など90年代ディズニー映画を支えたアラン・メンケン。

ディズニーで久々に復活した手描きアニメパートは、『美女と野獣』『スピリット』で素晴らしいアニメーションを披露したジェームズ・バクスターのスタジオが担当。
バクスターは元ディズニーで、その後反ディズニーのドリームワークス1で『スピリット』を作っています。

スピリット スタリオン・オブ・ザ・シマロン [DVD] DVD

価格¥28,980

順位231,828位

出演マット・デイモン, ジェームズ・クロムウェル, ダニエル・スタディ, ほか

監督ケリー・アスバリー, ローナ・クック

プロデュースジェフリー・カッツェンバーグ, ミレーユ・ソリア

脚本ジョン・フスコ

発行Paramount

発売日11.11.24

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そのバクスターが外注としてディズニーのアニメを作る2というのは、アメリカの手描きアニメ事情を色々考えさせられます。

アニメパートは後にキャラクターが実写になることを想定してか、派手な動きを若干抑え気味。ただ、エドワード王子が木の幹を馬でくぐるところや歌のラストで草原に馬に乗った2人がいるところなど、レイアウトには若干難があったと思います。逆に実写になってからのジゼルやエドワード王子たちの動きが、アニメーションのような若干オーバーアクトなのが面白いです。

エイミー・アダムス演じるジゼルのオーバーアクトな動き…歩くときの手の動きや腰の動きの感じなどは明らかにディズニーのアニメ『白雪姫』の動き3です。

リスのピップがニューヨークに来てからリアルなリスになってしゃべれなくなり、ずっとジェスチャーで大活躍するのですが、CGを担当したティペット・スタジオのアニメート技術の高さと独自性が見事に出ていました。

ティペット・スタジオのアニメートは、ディズニーのアニメーションから流れを汲むフルアニメ的オーバーアクションではなく、動物の仕草を活かしつつ芝居付けをするので擬人化してもナチュラル。
他にも都会の生き物がジゼルに呼ばれて部屋を掃除する「Happy Working Song」シーンの鳩のステップする動き、ネズミが皿拭きする動きなどでもティペット・スタジオの良さが活かされていました4

ジゼルを演じたエイミー・アダムスは撮影当時33歳。顔のアップの目じりの皺、二の腕のたるみなどちょっと年齢を感じさせ過ぎるかなとも思ったのですが(笑)オーバーアクションの演技もさまになって、声、歌がとてもクラシカルでかわいく、物語の最後は最近の世相を反映してか、果敢に戦って男を守るプリンセスを演じていました。

この映画、アニメパートから実写パートにかわるところでスクリーンサイズがビスタからシネスコに変わるんですね。

昔『宇宙戦艦ヤマト ヤマトよ永遠に』という作品で「脅威のワープ・ディメンション方式5!」と呼んで同じようなことをしてましたし『踊る大走査線2』でも同様の演出6をしていましたが、共にスクリーンサイズの変更と共に世界がドーンと広がって非常にいい効果を生んでいました。

けどこの映画はその効果がわかりにくかったのが残念でした。
ジゼルが突き落とされる井戸の底、アニメの世界と繋がってる土管の暗闇の中でのシーンでスクリーンサイズが変わっています。しかしそのシーンが暗いので、スクリーンサイズの変更がされててもパッと見はわからないと思います。
「アニメ世界のシーン→井戸に落とされて真っ暗→恐る恐る暗闇にあるフタをあける→(スクリーンサイズ変更)広がるNYの街並み」という方がスクリーン・サイズの変更が演出的に効いたと思うんですが。

この映画、とにかくディズニー映画のオマージュやパロディーが多くあります。

黒人のバスのおばさんのヘアースタイルがミッキーマウスだったり、ヒロインの相手役の娘が無意味にウェンディーの格好してたりと、あちこちに小さな色々な遊びがあります。
遊び部分を全部というのは、とても多くて書ききれませんが、主なものをご紹介します。

アニメパートで青い鳥が必ず飛んでるのは『白雪姫』のオマージュです。というか、この映画自体が『白雪姫』のオマージュのようなものですね。ジゼルの「7人の小人たちに聞かなきゃ。」と言ったセリフもありましたし。

その後アニメパートで緑色のトロル(巨人)が出てくるんですが、これ、ディズニー作品を皮肉ったドリームワークスの『シュレック』の主人公に見えるのですが…それは考えすぎでしょうか?(笑)

ジェームズ・マースデン演じるエドワード王子がバスの屋根に乗って剣を突き刺すシーン、後ろに映ってるポスター群がジェームズ・マースデンの出た『スーパーマン・リターンズ』『ヘアスプレー』ですね。同じくロバートの婚約者、ナンシー役のイディナ・メンゼルが出演しているミュージカル『レント』『ウィケッド』の看板もあります。

先にCGのことで書いた「Happy Working Song」シーン。鳩がスカートをもつのは『シンデレラ』のオマージュです。

ロバートが勤めている法律事務所のアシスタントは『リトルマーメード』アリエルの声優、ジョディ・ベンソン。

映画の前半ですが、この映画のハイライトとも言えるセントラル・パークの歌のシーンは非常に素晴らしいです。
しかし、ほんとこの手のダンスシーンのアイディアの豊かさ、ダンサーたちの技術の高さ、ダンサーたちの層の厚さには驚かされます。楽しそうに踊ってますが、ダンサー1人1人の動きを見てると凄く高等なこと7をやってます。
歌の入り方で、アニメキャラが急に歌いだすのをパロディーとしているのも面白いですし、カットのつなぎや編集が実にうまい。新郎新婦たちの優雅な踊りでエイミーの顔のアップからパッと広がるところは編集でうまくテンポを作っています。

ジゼルが芝生で奥のほうから手を広げてこちらに走ってくるシーンは、『サウンド・オブ・ミュージック』のオマージュとして『美女と野獣』で描かれたシーンを『サウンド・オブ・ミュージック』っぽく再現したものです。ややこしい(笑)

このシーンの中で軽やかなステップで踊っているおじいさんたちの中に『メリーポピンズ』の「Step In Time」シーンで踊っていた煙突掃除ダンサーの人がいます。こういう起用の仕方はほんとシャレてますね~

さらに余談ですがジゼルの歌につられて加わる、ひげ面&カーボウイハットのギターリスト、80年代に8フィンガー奏法でその名を轟かせた元ナイト・レンジャーのジェフ・ワトソンです。エンドロールには本名の「Jeffery Watson」でクレジットされています。

エドワード王子がNYに来てから泊まる安ホテルで見ているTVの昼メロは、『美女と野獣』のベルの声優ペイジ・オハラとルミエールの声優ジェリー・オーバックが出ていて、わざとベッタベタのくっさい演技をしてます。

ジゼルを探すエドワード王子がマンションの部屋を一つ一つ訪ねていくシーンがあるんですが、最初に出てくる子沢山の妊婦は『ポカホンタス』の主題歌を歌ったジュディー・キーン。
別の部屋の番号が「714」なんですが、これはカリフォルニア・オークランドにあるディズニーランドの電話番号のエリアナンバーです。

ティモシー・スポール演じる従者のナサニエルは、ジゼルとロバートが食事するイタリアンレストラン「ベラ・ノッテ」(『わんわん物語』の曲名ですね)ではひげのシェフの格好を、タクシーの運転手のふりをするときはアラジンの格好をしたりしてます。
https://youtu.be/ApsR4pDI5tk

エドワード王子が魔法の鏡と勘違いするTVのニュース、そのTVリポーターの名前は「メリー・アイリーン・カセロッティ」というんですが8『眠れる森の美女』の声優メリー・コスタ、『シンデレラ』の声優アイリーン・ウッズ、『白雪姫』の声優アドリアーナ・カセロッティのそれぞれの名前を合わせたオマージュでした。細かいわ!分かるか!(笑)

ラストのダンスシーンで『美女と野獣』と同じカメラワークがありました。シャンゼリアをなめて降りてくるとても有名なカメラワークです。

BGMにもさりげなーく、様々なディズニーの名曲の1フレーズを薄っすらと、しかし明らかに入れてきます。「星に願いを」の一瞬のフレームの出し方とそこからテーマ曲への繋ぎ方はうまかったなぁ 。感動しました。

エンディングはシルエットですが、ディズニー・プリンセス総登場です。
ちなみにナレーションは『メリー・ポピンズ』でメリー・ポピンズを演じたジュリー・アンドリュースです。

とにかくまだまだ書き足らないくらい、ディズニーが往年のアニメーションに敬意を表しつつ、自らの世界をネタにした楽しいキューティー映画です。
ここに書いた以外の遊びやオマージュはまだまだあると思います。
それを発見するのもこの映画の楽しみの1つかもしれません。

  1. ドリームワークスを創設したジェフリー・カッツェンバーグは『美女と野獣』などをヒットさせディズニーを復活させたにもかかわらず、当時ディズニーの最高責任者のマイケル・アイズナーに首にされ相当恨んでました。すぐに作ったドリームワークスはことごとくディズニー配給のピクサーと同時期に3Dアニメの公開をぶつけましたし、何より『シュレック』を見れば反ディズニーであることがわかりますね。 []
  2. ディズニー自体は、2Dアニメ部門を一度破棄したのですが、2006年、アニメ部門の最高制作責任者になったピクサーのジョン・ラセターの発案で2Dアニメ部門を復活させて2008年現在制作体制を整えています。 []
  3. ジゼルのつまむような仕草の手の動きは明らかにディズニー・プリンセスのアニメ演技のパロディーですが、『白雪姫』は実際の俳優の演技をアニメに置き換えた「ロトスコープ」という技法のフルアニメーションなので、常に体のどこかが動いている感じになっています。 []
  4. その分、日本人からするとゾッとするようなゴキのリアルさが実に気持ち悪いのですが… []
  5. 音もモノラルからステレオに変わって合唱曲になるし、二重銀河の大きさ・美しさ・存在感がスクリーンで出てました。 []
  6. オープニングでヘリコプターがアップからロングになって飛び去るに従ってスクリーンサイズも変わります。 []
  7. 後半出てくるブルーカラーのダンサーたちに注目。何気にすごい技をサラッと繰り出してます。 []
  8. レポートの最後に名前を言います。 []