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傑作小説の映画化『お買いもの中毒な私!』

傑作小説の映画化『お買いもの中毒な私!』
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まずキャスト。主演のレベッカ:アイラ・フィッシャーですが、アイラはこれまで男性を虜にする女性を多く演じてきています。そのアイラを女性が共感する主人公のレベッカにするのはちょっと違うなと映画を見るまでは思っていました。予告編を見ても、それは変わりませんでした。

しかしですね、映画を見て物語が進むうち、アイラがちゃんとドジでワガママだけど友達思いの人のいいレベッカに見えてくるんですよ。ちゃんと観客が共感する愛らしいキャラクターになってます。

友人スーズ:クリステン・リッターは原作のスーズのイメージにピッタリです。白くて細くて目が大きいクリステンは、これまでもキューティー映画ではいい脇役を演じてきましたが、今回が一番。この映画で一番”おいしい”出演者はクリステンでしょう。

ルーク:ヒュー・ダンシーについては、映画のキャラ設定自体が原作のルークと変わっていて、原作ではマザコン気味でがんばって超セレブな母親に認められようとしている、都会的でワーカーホリックな経営者です。映画ではボンボンだけど何とか独り立ちして認められたいともがいている、野心的な身なりも気にしない編集長になっていて、そういう意味ではちょっと無精ひげで男らしさが漂うヒューの感じがピッタリだったと思います。

さらにレベッカの両親はジョーン・キューザックとジョン・グッドマンという芸達者のベテランたちが演じます。

原作ではレベッカの妄想が止まらず…という描写がありますが、それを映画ではレベッカの妄想の世界が、日常と地続きであることをCGIを使って表現しています。そしてこのCGIがキューティー映画では過去最高峰といえるくらいの出来で、さりげないのですが、最大の見所にもなっています。

担当したのは世界最高峰のSFXスタジオILM1。さすがはILM、余裕の仕事ぶりです。

あえてどこにCGを使っているかはネタばれになるので書きませんが2、実に質感や光源設定がナチュラルで、CGとして動き出すまで全然わかりませんでした。

衣装は『セックス・アンド・ザ・シティー』のパトリシア・フィールドが担当していますが、う~ん個人的には今ひとつ。 3
キャラクターを表現するための機能としてファッションをみたとき、今回のコーディネートはちょっと個性的過ぎたのではないかと思うんです。

だって既製品を買いあさり、買ったあと実際に着ないで、もてあましている服が多いという設定のキャラクターですよ。だから実際に着ている服はパトリシアお得意の個性的な服やアイテムの組み合わせではなく、既製品っぽいシンプルさを出しておいて、クローゼットには個性的な「こんなのどこで着るの?」みたいな服が並んでいるほうが、キャラクターを表現するファッションになったのではないかと思うんです。

映画は、レベッカがお買い物をし続け借金で首がまわらなくなり、友情も失い、反省して借金をなくすために行動する…という展開になります。しかし、キャラクターの掘り下げ方が弱く、特にレベッカを追いかける銀行員のデレク:ロバート・スタントンの扱いが酷いのが残念です。

銀行員のデレクは仕事でレベッカに不足している額を支払うよう催促しているだけです。デレクは悪くありません。悪いのは逃げ回ってお金を払わないレベッカです。

映画ではラスト、レベッカがデレクに借金分を支払う際、お金の返し方で、ある嫌がらせをします。
「どうよ!」と颯爽と笑顔で銀行を出て行くレベッカ。一方レベッカの置き土産(嫌がらせ)を見て驚き立ちすくむデレク…

ちょっと待て。なんでデレクは嫌がらせを受けないといけないのでしょう?デレクは何か悪いことをしたでしょうか?普通に支払いをしないお客に対して督促の仕事をしていただけです。なのに映画ではデレクが悪者として描かれています。

原作ではデレクを悪者として見ていたのはレベッカだけで、実際はレベッカに対して親身になっている真面目で実直ないい人だったという、素晴らしく気持ちのいいオチがあります。デレクを悪く描くのはレベッカの主観で物語が進むからであって、この物語で唯一の悪者はレベッカ自身でなければなりません。けど、映画はそうなっていません。

正直言うと、この映画はこういったキャラクターの造形、原作の持つ構造の魅力の理解度を含めて、脚本の出来がいまひとつです。
演出はうまいので、シーンごとは笑ったり感動したりできます。しかし全体の構成が凡庸です。

『パイレーツ・オブ・カリビアン』、キューティー映画的には『コヨーテ・アグリー』『フラッシュ・ダンス』など、大ヒット連発のプロデューサーのジェリー・ブラッカイマーと、『ベスト・フレンズ・ウェディング 』『夢見る頃を過ぎても』と素晴らしいキューティー映画を作り出している監督のP・J・ホーガンが、世界的に人気の小説を手がけた映画です。キューティー映画としてはこれ以上ないくらい最高の条件、最高の布陣のはずです。

そのわりに一番重要な脚本家3人はほぼ無名です。メインライター経験者が1人もいません。4

時期的に考えると、全米脚本家協会のストライキ5の期間中に脚本制作が行われていたと考えられます。ストライキのせいでまともな脚本家が使えず、それがこの作品の出来に影響したのではないかと想像しています。

脚本に関しては辛口な意見になってしまいましたが、それも個人的にこの原作が大好きで、そのため映画化を期待しすぎていたせいかもしれません。
原作原理主義者というものは、どうしても原作と映画を比較して批判的な見方をしてしまいます。本当は映画として単体で見ないといけないと思いますし、他の作品ではそういう見方をしてきているつもりなのですが…

なので、この映画は原作を読まず、オリジナルの映画として見る人の方が、すんなり受け入れられて楽しめるのではないかと。
ユーモアなシーンも多くて、ちゃんと笑わせてくれますし、実に楽しく見れるキューティー映画であることは確かです。

レベッカが成長したことを示すラストシーン6は、映像的アイディアと音楽演出がとても素晴らしく、感動すると思います。

  1. スターウォーズのジョージ・ルーカスが、スターウォーズの特撮のために作った世界最高の技術をもつSFXスタジオです。ILMが開発した技術は数知れず。有名なところでは画像ソフトのフォトショップを開発したのはILMのスタッフです。あとILMのCG部門が独立してピクサーになります。 []
  2. 書かなくともわかります。CGで描かれたキャラは映画では重要ですから。 []
  3. パトリシアが来日した際、渋谷の109などで買ったブーツを使っているそうです。 []
  4. 後の仕事もまともな映画に関わっていません。 []
  5. インターネットで配信している作品の利益配当が低い、ということから始まった全米脚本家協会のストライキは07年11月から08年2月まで続きました。その間、脚本家が雇えず人気ドラマの制作は中断し放送延期、アカデミー賞などイベントも縮小されるなど、アメリカのエンタテイメント業界に大きな影響を与えました。 []
  6. 【ネタばれ注意!】ぶっちゃけると、原作原理主義者じゃなくてもこのシーンの「買い物を我慢したレベッカに対して「よくがんばった」と拍手喝采するマネキンたち」というのは、実に意味不明で変だと思うのですが…(笑) []