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女の子が大人の女性に憧れ、恋をする『アニタのラスト・チャチャ』

女の子が大人の女性に憧れ、恋をする『アニタのラスト・チャチャ』
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ストーリー

フィリピン軍の軍人アニタには、甘酸っぱい少女の頃の記憶があった…。
口うるさい母、デキ婚をした従兄と共に田舎町で暮らす12歳のアニタはおてんば盛り。ある日、10年前に村を出ていったピラルが父親が死んでもぬけの殻だった実家に戻ってくる。大人の女性の魅力タップリなピラルにアニタはひと目惚れ。ピラルはマッサージを開業し、村の男は長蛇の列を作るが、女性達はピラルをよく思っていなかった。何とかピラルに近づこうとするアニタだったが、ピラルの恋の相手は…

スタッフ&キャスト

原題:Ang huling cha-cha ni Anita(英題:Anita’s Last Cha-Cha)
監督・脚本:シーグリッド・アーンドレア・ベルナード
出演:アニタ:テリ・マルヴァー(子供時代)/ジェイ・ボードン(大人)、プラル:エンジェル・アキノ
マルクス・マドリガル、ジェイ・ボードン、ルイ・マナンサラ、レンレン・フリアル、ソロモン・マーク・デ・グズマン
2013年/フィリピン

2014年3月 第9回大阪アジアン映画祭にて上映。スペシャル・メンション受賞
2014年7月 第23回東京国際レズビアン・ゲイ映画祭にて上映。

女の子が大人の女性に恋をする、初恋映画

男の子が大人の女性に憧れ、色々と経験し大人へと成長するという『初恋映画』は古今東西よく作られる定番ジャンルです。本作は主人公を「男の子になりたい女の子」と設定することで、他の初恋映画とはひと味違うオリジナリティを持たせました。

女性軍人アニタが12歳の頃の自分を回想するところから物語ははじまります。回想シーンへのつなぎ方は『おもひでぽろぽろ』のように、現在の描写に子供の頃の自分が出てきて、そのまま観客を過去へと導く形で行われます。

12歳のアニタはヒョロヒョロで男の子みたいです。お母さんはアニタを女の子らしくさせようとするのですが、アニタは男の子ようなラフな格好を好みます。

アニタ役のテリ・マルヴァーは今回が初出演だそうですが、繊細かつコミカルでアクティブなボクっ娘を見事に演じていました。
見た目が細くて華奢で長い髪をあげて男の子っぽく振る舞う中性っぽい感じの子なのですが、映画の前半でお母さんに言われて渋々ワンピースを着て髪をおろした時の美少女っぷりが素晴らしかったです。その後は髪もショートにして、Tシャツにショートパンツと少年のように振る舞いますが、前半の美少女シーンが映画全体に効いています。
anitas-last-cha-cha_01このシーンは前半ではなく、髪を短くする直前のシーンです
この辺は、女の子らしく育てたいと願う母親に従うことに違和感を感じて、荒々しいローラーゲームの世界に飛び込んだエレン・ペイジ主演の『ローラガールズ・ダイアリー』を思い出しました。あの映画も前半に美女コンテストのシーンがあり、そのシーンでエレン・ペイジが美しく着飾って映えたからこそ、キューティー映画として後の性別を超えたストーリー展開に説得力を持ちました。

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順位47,095位

出演エレン・ペイジ, ドリュー・バリモア, ジュリエット・ルイス

監督ドリュー・バリモア

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アニタのお父さんはすでに亡くなっていて、家にはデキ婚を控えた従兄弟がいたり、お母さんは友達たちとワイワイとガールズ・トーク?を華咲かせたりしています。

アニタにはちょっとおデブでおませさんの女の子と同じくちょっとおデブな男の子の友達がいて、いつも3人で遊んでいます。
このおませさんの女の子のキャラクターが凄くいいです。台詞がいちいち大人のようにませてて笑いを誘っていました。

子役をコメディ・リリーフに使うというのは相当大変だと思いますが、演じた子役のレンレン・フリアルが見事なコメディアンヌぶりで、映画をとても楽しくしてくれます。レンレン・フリアルは今回の子役では唯一、テレビなどにも出演している子役タレントです。

友達の男の子を演じたソロモン・マーク・デ・グズマンはこの映画が初出演ですが、この子も実に芸達者。おデブな女の子をアニタに取られたと思ってスネたり、誤解と分かって2人が恋仲になるさまは実に微笑ましいです。
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大人のシリアスな事情も描きつつも主軸はブレない構成

そんな3人の前をある日、美しく長い黒髪の大人の女性が通ります。アニタは彼女に一目惚れしてしまいます。

彼女の名はプラル。30代前半あたりの設定でしょうか?家を出てずっと海外で暮らしていたのですが父親が亡くなり家に戻ってきました。アニタのお母さんや友達はみんな色々と噂します。プラルは家でマッサージを開業しました。男性たちがアニタを求めて長蛇の列を作ります。

このプラルを演じたエンジェル・アキノは人気モデルです。映画では健康的かつ妖しい色気が漂っていました。ただ彼女が男顔美人なので、映画の内容が分からない当初は「このプラルというキャラは元は男性だったのが女性になって帰ってきたんだ」と思ってみていました(笑)
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やがて映画は、プラルに憧れるアニタとプラルの交流という夢の様な甘酸っぱい描写と、プラルの周りの大人たちの様々な事情という現実的で重い部分を同時に描いてきます。

アニタの従兄弟とプラルの密会、プラルの過去などを描きながら、中絶や近親相姦、海外への出稼ぎといった問題が映画の中で顔を出します。でもその重い部分も、シーンの終わりに、アニタのお母さんが夜な夜なラジオで聞いている、とってもベタな恋愛ラジオドラマのストーリーをかぶせて、重くなり過ぎないようにしていたあたり、構成は見事でした。

重く現代にも繋がる問題を声高に主張しなかったのは、この映画の主軸が、同性に憧れ恋をするアニタの成長物語であるということを監督がちゃんと自覚していたからではないかと。そのへんのさじ加減がとてもバランス良かったと思います。

そんなシリアスなエピソードの合間合間には、大人の女性のプラルに憧れるアニタの妄想シーンがシームレスに入ってきます。プラルに迫られたり、プラルに襲われたり、一々妄想から現実に戻るアニタがかわいく面白いので、構成的に緩急がうまく付いた形になっていました。
anitas-last-cha-cha_03こういった妄想シーンが随所にでてきます。
さらにこの映画を、美しい初恋物語に仕立てあげたのは撮影です。とにかく画が美しかったです。狭い部屋での撮影ではFIXにせずカメラをゆったり移動させたりとても優雅でした。
昼の野外シーンの木々や草など緑の美しさ、演出として意図的に表現された青い空、アジアっぽい、夜の外の暗闇と部屋の明かりの対比と湿り気など、色合いや風格がとにかく美しく、アニタの美しい思い出を見事に表現していました。撮影のアルマ・R・デラペニャという人、気になります。

女の子が大人の女性に恋をするという、ちょっと変わった初恋物語『アニタのラスト・チャチャ』は決して大人からの目線にならず、あくまでも子どもの視点を大事に活かしつつ、地元のお祭りや市場の様子などフィリピンの風土や問題も組み入れた、実に豊かで独自性の高いキューティー映画です。

こちらは撮影の合間のプラル役のエンジェル・アキノとアニタ役テリ・マルヴァーです。
ちなみにエンジェル・アキノはこの映画出演時39歳。20歳と18歳の娘がいます。
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