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第29回東京国際映画祭:7分間

第29回東京国際映画祭:7分間
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リストラ計画が進行する繊維工場。様々な背景と事情を持つ女性労働者たちは結束して交渉にあたるが、工場側は奇妙な提案を出してくる。受け入れることはたやすいと思われるこの条件に、労働者のリーダー格の女性が異を唱え、場は荒れていく…。(映画祭公式サイトより)
監督/脚本:ミケーレ・プラチド
脚本:ステファノ・マッシーニ

キャスト

オッタヴィア・ピッコロ
アンブラ・アンジョリーニ
クリスティアーナ・カポトンディ
フィオレッラ・マンノイア
マリア・ナツィオナーレ
ヴィオランテ・プラチド
クレマンス・ポエジー
サビーネ・ティモテオ
アンヌ・コンシニ
ルイーザ・カッタネオ
エリカ・ダンブロージョ
バルキッサ・マイガ


7分間を巡る議論

イタリアの繊維工場を買い取ったフランスの会社から交渉の代表として1人の女性がやってきます。一方、労働者側からは1人の老女性労働者が代表として会議に加わっています。
フランス人女性は物腰も柔らかく会議はスムーズに進み、あとは代表が持ち帰って労働者側で話し合い、回答を出すというところまできました。工場からの提案は「休憩時間を7分削除したい」というもの。一見なんの変哲もないこの提案に、リストラされると思っていた労働者代表として集まった様々な事情を抱えた女性たちは「7分の休みを削るだけなら」と会社側の提案を受け入れようとします。
しかし、それまで寡黙だった老女性労働者が反対の意を唱え、そこから女性労働者たちの会議室での議論が始まります。

この展開に誰もが法廷ドラマの傑作『十二人の怒れる男』を思い出すでしょう。はい、その通り。

法廷ドラマの傑作『十二人の怒れる男』

『十二人の怒れる男』は何度か映像化されていますが、一番有名なのは1957年のヘンリー・フォンダ主演、シドニー・ルメット監督の映画版でしょう。
ある少年犯罪に対して、お互いに名も知らぬ陪審員たちが集められます。あらゆる点から少年の犯罪は明確であるため、満場一致の採決が必要な陪審員制度で、容易に採決が終わると思われていたものが、1人だけ少年の無罪を主張した男が出てきます。そのため密室で議論が展開されていく様を描いたこの映画は、劇が進むことで各人のさまが浮き彫りになる構成、サスペンスとしての立証のどんでん返しなど、不屈の名作として知られている作品です。

場面はほぼ1箇所の会議室、そこで互いに立場もわからない男たちの議論だけで進められる展開ですが全く飽きさせません。1人の男の理論的な問いかけによって、次々と有罪を立証していたものの信憑性が失われていきます。さらに議論を進めていくことで、各人それぞれの生活の背景も浮き彫りになっていくという仕組みです。

絶叫!絶叫!また絶叫!

映画はとにかくシネフィルのみなさんが大好きな女優たちの『熱演』で、会議室で絶叫につぐ絶叫。その様はヘビーメタルのコンサートのようです。
(いや、ヘビメタコンサートのほうがバラードなどもあるから緩急あるかも)

しかも、それぞれの立場、「はい、移民の人代表!」「はい、障がい者の人代表!」「はい、若者代表!」という風に、順番に分かりやすく主張して絶叫していくので、ただただ

う  る  さ  い

映画はご丁寧に冒頭で労働者代表たちのそれぞれの立場を描写します。だから劇中の議論で各人の意外な背景が浮き彫りになることはなく、ただただそれぞれの立場で絶叫台詞を唱えるだけです。こんな緩急のない、何のどんでん返しのスリリングさもない、単なる『十二人の怒れる男』フォーマットを上辺だけコピーした映画では求心力に欠けます。

さらによくわからないのは、最初、リーダー格の老女性労働者だけが反対するんです。そこから熱い絶叫議論が始まります。
ということは、この採択は満場一致じゃないといけないのかと思いきや、最終的には多数決なんですよ…意味わからん。
しかも老女性労働者は映画の最後の方で煮え切らない議論に切れて「とにかく私は反対だぁああああ!」と絶叫して会議室を出て帰ってしまいます。
え?いやいや、言い出しっぺのあんたが退席したらいかんでしょう、と。

2012年に実際の労働争議をもとにしたこの映画のテーマである「たった7分、されど7分」がどういう意味を持つのか?その問いかけは面白いと思います。
女優のみなさんは評論家のみなさんが大好きなシリアスな『熱演』ですし、監督は巨匠ですし、そういう意味では作品は好印象でしょうし、賞は取るかもしれません。

しかし、感想としては「90分という尺で、7分間の是非を問う本作を鑑賞したことで、私は自分の大事な90分を奪われてしまいました。」ということです。