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全編iPhone 5sで撮影された、とってもキューティー映画な『タンジェリン』

全編iPhone 5sで撮影された、とってもキューティー映画な『タンジェリン』
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tangerine_00ロサンゼルスの夏のようなクリスマス・イブ。トランスジェンダーの娼婦シン・ディは、恋人の浮気相手を見つけてとっちめようと躍起になる。歌手を夢見る同業の友人アレクサンドラは、カフェでのライブが迫っている。アルメニア出身の心優しきタクシードライバーのラズミックは、変態ちっくな欲望を満たそうとしている…。危険な香りが漂う街を舞台に、3人の大事な夜がカオティックに交差する様を描く爆笑コメディドラマ。スラングとF××Kがマシンガンのように飛び交い、スピード感溢れる展開とリアリズムに圧倒されるが、ベイカー監督はストリートで出会った女性たちと脚本の構想を練るうちに、実際の彼女たちに出演してもらうことにしたという。破天荒な物語ながら、セクシャル・マイノリティや移民に対する温かい視線が貫かれ、アメリカン・インディの層の厚さが実感できる痛快作である。iPhone5Sにアナモレンズを装着して撮られた映像の効果にも注目。(東京国際映画祭公式サイトより)


原題:Tangerine
監督/編集/撮影/脚本:ショーン・ベイカー
脚本/プロデューサー:クリス・ベルゴッチ
出演:キタナ・キキ・ロドリゲス(シン・ディ・レラ)、マイヤ・テイラー(アレクサンドラ)、カレン・カラグリアン(ラズミック)、ミッキー・オヘイガン(ディナー)アラ・トゥマニアン(アシュケン)、ジェームズ・ランソン(チェスター)
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全編iPhone 5sで撮影された長編映画ということで、今年の夏、NYで先行上映された辺りからアメリカで話題になっていた『タンジェリン』。技術的なこともですが、何よりこの作品がドラマとしてとてもキューティー映画していると観た人から聞いて薦められていたので、今回の東京国際映画祭では個人的に一番期待の作品でした。

iPhoneで撮影するということ

全編iPhone 5s(64G)で撮影といっても、我々が普段使っているiPhoneそのままで撮影したわけではなく、映画用のスクリーンサイズにするためのレンズを装着していたり、有料アプリを使って、素のiPhoneでは不可能なカメラフォーカスのコントロールし、普通の映画の映像を実現しています。iPhoneは3台使用されました。

iPhoneでの撮影で注目を集めましたが、映画は音の処理が重要であることを改めて教えてくれました。
普通に音を拾うと環境音(風の音や何気ない周囲の音)が入ってきます。これを編集するとカットごとに環境音がバラバラになってしまいます。この映画ではそれがありません。ちゃんと映画として音が整理されています。撮影風景の写真を見ると、音は普通の映画と同じ手法で収録しています。
決してiPhoneを使えば撮れるようになった映画ではなく、ハンディカムがiPhoneに代わっただけでの映画です。
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それと「iPhoneで撮られた映画」という事前情報のせいで、映写状況との関係も気にしないといけません。上映されて自分が見ている画質が、果たして意図した通りのものなのかは、フィルム映写に比べて映写の質は一定したものの、DLP映写機やスクリーンの状態にもよります。
映画を見て「iPhoneだと画質が云々」と画質に関しての感想を述べるのがとても難しいです。

そういう意味では、この映画を見る時「iPhoneで撮られた映画」という事前情報を忘れるべきでしょう。そしてそういう技術的な条件を忘れても何ら問題のない、他の映画と同じ素晴らしいキューティー映画に仕上がっています。

キューティー映画としての『タンジェリン』

出演者もチョイ役はインスタグラムやVineなどSNSの投稿者から選ばれています1。映画はロサンゼルスのクリスマスイブの1日を扱っていますが、撮影も実際2013年のロサンゼルスでのクリスマスイブに行われています。追加撮影は年明けに行われました。

映像は基本的に、登場人物と一緒に移動するドキュメントタッチです。広めのワイドショットを使いつつ、アップだけではなく客観的なロングショットも挿入し、編集も小気味よく、劇伴もほとんどなく、ロサンゼルスを舞台にしているせいもあり乾いたタッチとなっています。

内容的には刑務所から出所したトランスジェンダーの売春婦のヒロイン”シン・ディ・レラ(シンデレラ)”が友達で同じくトランスジェンダーの売春婦のアレクサンドラから、彼氏が他の女と寝たというのを聞かされ、ぶちきれて相手を探しにロスを歩きまわります。
一方、アレクサンドラはシン・ディ・レラに付いて行きながら同時に、今晩カフェで行われるワンマンショーの宣伝でチラシを同僚たちに配り歩きます。
そんな彼女たちとは別にアルメニア人ラズミックが運転するタクシーの乗客とのエピソードが時々挿入されます。

シン・ディ・レラは浮気相手の女性(これまた売春婦)のところへ。一方アレクサンドラは路上でいつもの商売をし客とけんかになり、嫁も子供もいるラズミックは仕事の合間にトランスジェンダーの売春婦を買おうとして…と、それぞれのトホホなエピソードをコミカルにリアルに描写しつつ、この3つの視点で映画は進行します。
シン・ディ・レラ・パートはアクティブで激しく、アレクサンドラ・パートは哀愁とリアリティ。そして一見全く関係のないように思えるラズミック・パートが他の2つのパートを繋いでラストに持っていく流れを作ります。しっかりした構成です。

キューティー映画で描かれる女性同士の友情には、どこか「かわいらしい」部分があることが重要だと思っています。
例えば1つの食べ物を分けあったり、ケンカして仲直りするときにただ謝るだけじゃなく相手の好きなものをそっとプレゼントしたり、友達の唯一・絶対の味方になってあげたり…年齢に関係なく、様々な「かわいらしい」友情が描かれているのがキューティー映画です。

基本的にこの映画はトランスジェンダーの2人の友情ストーリーです。しかし単なる仲良しの親友というわけではなく、そこはちょっとひねってあるのですが、その友情のねじれ具合が「かわいらしく」描かれていて、とてもキューティー映画しています。

シン・ディ・レラは浮気相手の売春婦(彼女が勝手に思っているだけの勘違いなのですが)を見つけ出し、髪を引っ張り小突き回し、力づくで彼氏のところに連れて行こうとしますが、アレクサンドラのワンマンショーの時間になったため、浮気相手も含めてカフェへ向かいます。ブータレながらもアレクサンドラの歌を聞く売春婦もおかしいのですが、お客のいないカフェでアレクサンドラの歌を一生懸命真剣に聞くシン・ディ・レラの友情がとてもかわいらしいのです。

2人は最後の方で、あることを巡って大げんかをするのですが、この映画はそんな2人の仲直り方法を、とってもかわいらしく、しかもトランスジェンダーだからこその方法で見せて終わります。その終わらせ方がとっても素敵です。2

決してサクセス・ストーリーではないかもしれません。R18の描写もあります。しかしこの映画はまごうことなきキューティー映画です。見終わると笑顔になれる、楽しくてほろ苦くて優しい映画です。

ショーン・ベイカー監督の前作『チワワは見ていた』との関係

この作品を語る上で、ショーン・ベイカー監督の前作『チワワは見ていた』にも言及しておかねばなりません。主演はドリー・ヘミングウェイ。文豪ヘミングウェイのひ孫にあたります。脇役のキャストはほぼ全員『タンジェリン』にも出演しています。
海外最新キューティー映画紹介:Starlet

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監督ジョーン・ベイカー

出演ドリー・ヘミングウェイ

発行オンリー・ハーツ

カテゴリーDVD

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『チワワは見ていた』は、チワワを飼っている今どきの若い女の子が、ガレージセールで買った魔法瓶から大量のお金を発見。さっそく服を買ったり使ってみたものの、なんとなく、魔法瓶の持ち主の(お金のことを忘れている)おばあさんのところに行き、お金のことは内緒にしたまま、色々と親切にすることで恩返しをし始めます。最初は怪しんでいたおばあさんもやがて打ち解け、2人の間で友情が芽生えるという、これまた乾いたタッチながら、要所要所がとてもかわいらしいキューティー映画です。

女の子が普段何をして生活しているかは、この映画では最初あえて語らず謎になっています。見ていくと女の子の職業が分かる仕掛けになっていて、それが結構重要だったりするのですが、邦題のサブタイトルが、女の子の職業をモロに言っちゃってるんですよね…(笑)
ご覧になる時は出来るだけ予備情報なしで見てください。その方が『チワワは見ていた』で描かれるテーマの本質がはっきりわかると思うので。

この映画の映像は、手持ちカメラで主要人物と一緒に移動するドキュメントタッチの映像です。役者の台詞は日常会話メインで、言葉少なく、基本的に劇伴がなく、アクション途中でパンパン小気味よく切る編集です。次回作となる『タンジェリン』の映像スタイルも同じでした。
つまりショーン監督の演出、撮影、編集スタイルはほぼ変わっていないことがわかります。iPhoneを使ったから出来たスタイルの作品ではなく、作品を作る上でiPhoneを利用したにすぎないということです。

ショーン監督のロサンゼルスに住む性を商売にした女性やトランスジェンダーなどLGBTや、ヤクの売人などマイノリティを見つめる視点とほのかな優しさ、作劇としてのコメディの具合はこの2作で一貫しています。
ドキュメントタッチでリアルな生活感を出しながらも、映画自体はちゃんと作劇的なキャラクターとドラマで構成されているこの監督のスタイル、今後もキューティー映画として注目していきたいところです。

  1. タクシーに乗ってくるお客、チョイ出の売春婦役など。 []
  2. ネタバレ:シン・ディ・レラのかつらが汚れてしまい、コインランドリーで洗濯することになります。そんなシン・ディ・レラにアレクサンドラが、自分のかつらを何も言わず貸してあげるのです!なんて素敵な友情でしょうか! []

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