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ミュージカル映画として見る『アナと雪の女王』

ミュージカル映画として見る『アナと雪の女王』
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「雪の女王」が『アナと雪の女王』になるまで

原作となっているアンデルセンの「雪の女王」は、ヒロインである少女ゲルダが、雪の女王にさらわれた友達の男の子カイを探す旅に出て色々な人達と出会い、雪の女王からカイと、カイの閉ざされた心を取り戻すお話です。
ディズニーは2000年あたりから、この「雪の女王」の映画化を企画します。『塔の上のラプンツェル』で見事にCGアニメーターたちを指揮した伝説の名アニメーター、グレン・キーンを中心に企画は進められていましたが一旦中止に。その後、色々なスタッフによって企画が検討され、歌も作られましたが、最終的に姉妹の物語としてアレンジされ『アナと雪の女王』として映画になりました。

『アナと雪の女王』って結構いいかげん?

『アナと雪の女王』は物語だけ追うと、かなり構成が粗いし決して完全無欠の作品とはいえません。

例えば、お互い顔を見ないまま暮らしたエルサとアナの姉妹は、エルサの戴冠式をきっかけに10年ぶりに再会するわけですが、再会のドラマを描きません。
シーンとしてはまず戴冠式があり、その後のパーティーで姉妹は久しぶりに会話するという流れです。しかしその前の戴冠式ですでに2人は並んで立っているんです。だからパーティーで久しぶりに会話してるのが何だか妙に思えてしまいます。

普通なら戴冠式直前、例えば会場に入る直前、久々に姉妹が出会って、これから開く扉を前にしてお互い「久しぶりね」「いよいよね」みたいなぎこちない会話をして戴冠式へ…、その後改めてパーティーシーンで姉妹を本編通りに会話させます。

また、姉妹についても色々といいかげんです。
アナは脳天気に一目惚れの相手を信じ結婚しようとします。それをとがめる姉のエルサと口論になり、それがきっかけでエルサは能力が抑えきれなくなり、国全部を冬に変えてしまうのですが(壮大な姉妹ケンカで王国民にはいい迷惑です(笑))、アナは姉とけんかして異常事態になったことに対して何とかしようとするのであって、自身の短絡的な行動に反省はありません。

一方のエルサは国を冬にしてしまいながら「ありのままの自分でいいのよ〜♫レリゴ〜レリゴ〜♪」と歌いながら山に行って城を作ってこもります。こもるだけで何かするわけではありません。妹に「この寒さ、どうにかせい」と言われても、自分自身、何で凍らせることが出来るのかすら知らないんですから、そんなのどうにも出来ません。

エルサを例えるなら、いびきの大きい人が近所から「うるさくて寝れない」と苦情言われて、しょうがないから人のいない山にこもって気兼ねなく寝ようとしたけど、今度は山からこだまとしていびきが響き渡ってしまいもっと迷惑かけてしまいました…みたいな話で、根本的に何の解決にもなっていません。

そういう、ちょっとしたところが全編に渡って凄く足らない映画です。

駄作?イヤイヤ、違います。傑作です

ではダメかというと、それは全く違います。
キューティー映画として傑作です。だから大ヒットしました。ただダメな作品ならここまで観客の支持を集めません。

キューティー映画の傑作というのは、見ている間現実を忘れるくらい集中できて、見終わって幸せになる映画のことだと思っています。
この映画は上記で書いたような些細なことを吹き飛ばす勢いと、見ている間と見終わった後ですごい満足感がありました。

それは人々の心を掴む大事な「テーマ」ががっしりと備わっているからであり、そのテーマを表現した「歌」が魅力的だったからであり、その歌を演出した「ミュージカルシーン」の映像作りが圧倒的に上手かったからです。

これって、実はよく出来たミュージカル映画にある要素ですね。
ミュージカル映画の傑作って、あえて誤解を恐れずに書きますが、映画として物語を語る技法という意味ではいい加減なものが多いと思っています。
素晴らしいミュージカル映画って、伝えたいテーマを「ミュージカルシーン」「歌」でイマジネーション豊富に観客に伝えてくれます。多少の説明不足や粗が気にならないくらいの、満足感の高い映像があればいいのです。映画を見て直感的に感動を味わえるのが、ミュージカル映画の醍醐味です。

『アナと雪の女王』はアニメ映画のミュージカルとしてではなく、ミュージカル映画のアニメ化として見せようとしていたように思えます。

テーマと歌とアニメ技術

今回目新しかったのは、姉妹とはいえ、女性同士の友情を描いたところでした。
男女の恋愛による愛ではなく、相手を思いやる自己犠牲にも似た献身的な気持ちを「真実の愛」として描きました。
この辺りはディズニー初の女性監督して、共同監督に名を連ねたジェニファー・リーの貢献が高いと思います。

さらに「自分が自分らしくあること」というキューティー映画的テーマが現代的に描かれています。
自由奔放に生きてきたけど、姉のために自己犠牲もいとわない妹アナの素直な気持ちと行動が物語を動かします。
一方、姉エルサの呪われた運命は映画的にとてもドラマティックです。その設定に、抑圧され我慢を強いられてきたエルサの悲痛な気持ちが重なり、それが大きな共感を得ました。

そして共感を得るために使われたのが歌。エルサ役のイディナ・メンゼルが歌う「Let It Go」。この名曲がこの映画を引張る原動力となりました。
日本では公開前に「Let It Go」のシーンが映画の宣伝PVとして映画館やネット上で流され続けました。確かに名曲です。このシーンの映像も素晴らしいです。
しかし映画を観た人ならわかってもらえると思いますが、この曲と映像は切りだして独立したPVとして観るより、映画の流れの中で1シーンとして観たほうがより感動する仕掛けになっています。

元々海外では映画公開後に「Let It Go」のPVが公開されました。これはリピーターを喚起するためです。その思惑が当たって大きな動員へと繋がります。

自分は幸運にもこの映画をまだ大ブームになる前の試写で観たので、何の予備知識もなく劇中に突然現れた「Let It Go」シーンの迫力に圧倒されました。シーンが終わった時、ミュージカルを見ている時のように拍手したくなったくらいです。
そして映画を観終わり、あぁ、レリゴ〜のシーンは感動的だったなぁ、と思いながらネットで調べるとまさにそのシーンがPVとして公開されていて、それを何度も何度も見直しました。

このシーンの凄さって何だろう?と考えると、歌詞の内容もさることながら、アニメの見せ方と演出の巧みさによるところが大きいと思っています。

最初のところから動きを見てると、エリサ役のイディア・メンデスが歌ってる時の息継ぎやブレスの部分を、キャラクターの微妙な肩の動きで表現しています。

『アナと雪の女王』では全体的に、海外アニメでは当たり前に見られるオーバーアクトな動きが極力抑えられていて、よりナチュラルでリアルな動きを目指しているっぽいんですね。1

「Let It Go」の前半部分も普通ならカット割りやオーバーアクトで歌のリズムを表現するところを「キャラクターが歌っていること」という、実写では当たり前だけどアニメで再現するにはとても大変なことを、高度なアニメ技法で表現しています。2

この辺は前作『塔の上のラプンツェル』から受け継がれたものですね。『ラプンツェル』ではキャラクターの動かし方で、オーバーアクトと何気ないリアルな動きが一緒になっていました。

アニメ映画ではなくミュージカル映画として見る

『アナと雪の女王』ではミュージカルシーンは全部で9つあります。

普通アニメのミュージカルシーンでは、キャラクターに全部歌わせるのは技術的に大変なので、画面で歌が流れていてもキャラクターは普通の芝居をしていたり、イメージシーンを挟むなどして、歌うという複雑な動作を描くことをできるだけ巧妙に避けます。それを上手くやるとアニメならではのイメージ豊かな表現となります。

下にあるのは前作『塔の上のラプンツェル』のミュージカルシーンです。動きがどれも素晴らしいのですが、「キャラが歌っている」ところに注目して見てください。
ポイントとなるところでは歌ってるカットを入れてますが、歌っている動作自体は巧妙にポーズやタイミングで誤魔化しています。

今回『アナと雪の女王』では、全ミュージカルシーンで、歌声を出しているキャラクターは常に歌っています。(歌っている芝居をしています)

しかも歌のシーンは平均して3分近い長い尺なのが特徴です。

これはアニメーション的には非常に複雑で手間のかかる表現です。そしてこうして作られたキャラクターたちが歌うミュージカルシーンが、アニメながらも舞台や実写のミュージカルを見ているような印象を観客に与えています。

本作が動員で成功したのは、ミュージカルのヒットでは必須の劇場に何度も通うリピーターを生み出したこと。それはミュージカルシーンの見せ場としての作り方のうまさ、その構成の巧みさ、アニメ技術力の高さがあったからだと分析しています。

この映画には画面に歌詞がテロップとして出て一緒に歌えるバージョンがありますが、それより、各ミュージカルシーン後に拍手喝采する時間を許す、舞台のミュージカルのような上映形式があってもいいんじゃないかと思えるのですが(笑)

カメオ出演

ちなみに映画には『塔の上のラプンツェル』のラプンツェルとユージーンがカメオ出演しています。アナが戴冠式の日、初めて門が開き外に出たところに注目。ユージーンは後ろ姿だけですが、ラプンツェルは横顔が見れます。ラプンツェルは短髪黒髪バージョンです。お見逃しなく。

原作のゲルダとカイも本編に登場します。ラスト、スケートをしてる太ったおばさんとおじさんのカップルです。
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ちなみに宮崎駿監督が新人の時に見て恋い焦がれ、のちに『千と千尋の神隠し』でパクる、ソ連版『雪の女王』のゲルダとカイはこちらです。frozen_01
宮崎駿さんが『アナと雪の女王』のゲルダとカイを見たら怒りまっせ(笑)

  1. ちょっと細かく補足すると、これまでのアニメでのミュージカルシーンは、歌のリズムに合わせてキャラクターをリズミカルにオーバーアクトさせることで、「歌っているかのように」見せていました。本作ではそこをちゃんと「歌う」芝居をキャラクターにさせています。 []
  2. ちなみにディズニーのCGアニメでは人間の動きをCGキャラに置き換える技術「モーション・キャプチャー」を使っていません。手描きアニメと変わらない、アニメーターによる手付けです。 []

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