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『タンジェリン』ショーン・ベイカー監督インタビュー

『タンジェリン』ショーン・ベイカー監督インタビュー
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散々聞かれているとは思いますが、iPhoneでの撮影についてお聞きします。撮影機材としてはiPhoneだけではなく、小型なカメラなど他にも安くて使える機材の選択技はあったと思います。なぜその中からiPhoneを選択したのでしょう?

今、「他にも安くて」とおっしゃったけど、他の機材だとそれに関わるスタッフも必要になって、予算を圧迫していきます。
もともと制作費的な理由からiPhoneで撮影しようと決めたのですが、撮影の2日目に気づいたことがあって、iPhoneだと撮影が秘密裏に撮れるということでした。ストリートライフを描いている映画なので、僕らが街に溶け込むようにして撮影できるというのはとても大きかったのです。

それと、出演者のほとんどが素人だったので、仮に小さなデジカメだったとしても彼女たちはカメラを意識してしまったでしょう。けどiPhoneだと普段からみんな自撮りしてるのもあって「カメラで撮られている」という意識が彼女たちから消えていました。

そういう意味では、普通、素人さんたちがあまりカメラを意識せず自然に演技できるようになるまで1週間くらいかかるのに、iPhoneにしたことで撮影の初日からいい演技ができていたのはとても興味深かったですね。

それを聞いた上で質問したいのが音のことです。メイキングの写真を見ると、カメラはiPhoneでも音は通常の撮影同様、ガンマイクを使って音声さんが録っていましたね。映画に音はとても重要だと思いますし、iPhoneでも録れないのは「プロの音」だと思うのですが、そこはどう考えましたか?

まさにその通り!映画で音が重要なのは全く同感です。
映像というのは、映し出されたものを観客は割と何でも受け入れられるんだけど、音が悪いと観客の心に入っていかないんですよ。だからアマチュアとプロの違いは音じゃないかと僕も思ってるんです。

『タンジェリン』では音声技師のアイリン・ストラウスなしではこの映画はできなかったと思っているので、ポスターでも彼の名前は絶対入れてもらうようにしています。
本国版ポスター。アイリン・ストラウスが表記されている。
日本版ポスター。こちらにも英語表記が。
彼は『チワワは見ていた』の時も参加してくれていて、最高品質の音を録ってくれるんです。
『タンジェリン』のタクシーのシーンでは、彼は190cm以上あるのに車の後ろのトランクに身を潜めてました。
タクシーの運転手、ラズミック役のカレン・カラグリアンの運転はとても下手で、トランクの中のアイリスは悪態をつきっぱなしだった(笑)

撮影が終わってカレンから「監督、この作品に出演させてくれてありがとう!今だからいいますが、実は私は運転できなかったんです。」と言われたんです。彼はこの映画に参加したいと思ってくれたばかりに、運転ができないということを内緒にしていたんだ(笑)

(笑)『チワワは見ていた』にもマネージャー役で出演していたカレン・カラグリアンが、車を駐車場に止めるのにちょっとだけですが運転するシーンがありましたよね?

あぁ、カマロを駐車するシーンだね。あっちの方が車が高級なだけにやばかったかも(笑)

編集は監督自身ですが、『タンジェリン』での唐突に音を遮ったり、爆音から無音になったり、さまざまな音を掛け合わせるという独特な編集スタイルはどこから来たものなのですか?

全部自分が編集をてがけるのは、監督業の半分は編集だと思っているから。編集することで自分自身、映画を客観的に見ることができると思っています。

今回の編集スタイルは音楽によるところが大きくて、当時バイン1にはまっていたんです。モルス・タイラーというアーティストがいて、彼のトラップ2を聞いていた時にちょうどタンジェリンの編集をしていたのですが、「これこそ、この映画の音楽だ!」と当初はトラップのリズムでずっと編集をしました。

けどシンディが地下鉄の駅に行くシーンあたりで「ちょっと違うな」と感じたんです。せっかく多様な人々を描いている作品なんだから、音楽のジャンルも1つにこだわる必要はないと思って、ベートーヴェンの曲を当ててみました。そしたらトラップやクラシックだけじゃなく、ジャズやサルサとかもあっていいと思うようになって、そこから多種多様な音楽をはめるスタイルに変えたんです。

映画全体に流れるリズム感というのを、監督や編集者はいつも悩ませているものと思うんです。映画が成立するかどうか重要なポイントですし。
今回の映画ではコインランドリーのシーン、洗車のシーンなどは長回しで環境音のみにしています。それらはとても大事なシーンなので、際立たせるためにその前後の他のシーンをわざと短いカット割りでゴチャゴチャとさせて対比させたりしています。

  1. 6秒の動画を投稿するSNSサービス。ツイッターに買収されたが2016年10月に閉鎖。現在はアプリ「Vine Camera」として生まれ変わってサービスを開始。 []
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