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『ボヴァリー夫人とパン屋』アンヌ・フォンテーヌ監督インタビュー

『ボヴァリー夫人とパン屋』アンヌ・フォンテーヌ監督インタビュー
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『ボヴァリー夫人とパン屋』のアンヌ・フォンテーヌ監督は2013年に、ナオミ・ワッツとロビン・ライト共演で、互いの息子と愛人になる親友の母親2人の官能的なお話『美しい絵の崩壊』を監督しています。本作『ボヴァリー夫人とパン屋』も非常に濃厚で官能的な作品です。
しかし、ただの官能&古典のパロティに終わりません。とても上質なコメディ映画です。


女性の官能性を描いてきたアンヌ・フォンテーヌ監督が、この映画で我々をどうやって楽しませようとしてくれたのか?またイギリス人が書いた、フランスを舞台にしたグラフィック・ノベルをどう映画として調理したのか?そこに興味を惹かれました。

映画感想:物語全てが濃厚で華麗な”前フリ”の『ボヴァリー夫人とパン屋』

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アンヌ・フォンテーヌ

1959年ルクセンブルグ生まれ。1980年に女優としてデビュー。テレビや舞台に出演するうちに舞台演出に携わるようになる。監督・脚本を務めた、平凡な主婦と美しい青年の官能的な物語『ドライクリーニング』(97)が第54回ヴェネチア国際映画祭最優秀脚本賞を受賞した他、セザール賞5部門ノミネートなど高く評価された。実弟が演じる”オーギュスタン”シリーズの他、ファニー・アルダンとエマニュエル・ベアールというフランス2大女優共演の『恍惚』(03)、オドレイ・トトゥ主演で第82回アカデミー賞衣装デザイン賞、第63回英国アカデミー賞各賞、第35回セザール賞各賞にノミネートされた『ココ・アヴァン・シャネル』(09)、ナオミ・ワッツとロビン・ライト共演の『美しい絵の崩壊』(13)などを監督し、国際的に活躍中

監督はフランス人ですが、色々な国と題材で映画を作っていますね。自身では立ち位置をどうお考えですか?

フランス人で国際的にやってる監督、ということだと思います。
『ココ・アヴァン・シャネル』は世界的な展開をしていますし、『美しい絵の崩壊』はオーストラリアで撮りましたし、あと1本撮り終えたのがあるのですが、それはポーランドで撮影しました。
私はフランスの映画作家なんだけど、選ぶテーマが国際的ということなんだと思います。そして今回の『ボヴァリー夫人とパン屋』はノルマンディが舞台ですし、私としてはとてもフランス的に撮っていると思います。

原作はイギリス人のポージー・シモンズによるものですね?

ポージー・シモンズはイギリス人ですが、彼女はとてもフランスが好きな人なんです。ポージー・シモンズ自身がパン屋のマルタンに似ているところがあって、想像や妄想を膨らませるという意味で、ある意味作家性を持っていますね。彼女自身の作家性と類似点があると思います。

本作はユーモアがあちこちに散りばめられていました。試写でもみなさん大爆笑でした。

笑ってもらえてうれしいです。フランスでも同じリアクションでした。間接的な表現でのエロティズムという、オリジナルなユーモアの表現方法を目指したので、その反応はうれしいです。

コメディシーンとして評判のいい、背中をハチに刺されたジェマが、慌ててマルタンに刺されたところから毒を出すよう、背中を吸うことを指示するシーンは、官能性とコミカルな部分を併せ持ち、しかもそれで間接的な官能性を描ける状況ということで設定したんです。

普段優しいジェマが急に命令口調で「吸って!」「吸え!」といやらしい言葉1を連発するのがおかしかったです。とにかく役者たちには、「このシーンはコメディの芝居で」とお願いしましたし、ジェマ役のジェマ・アータトンには、「ここで急に高飛車に命令口調になるんだ」と、演技の調子を変えることを頼みました。

原作のグラフィック・ノベルは色々な視点で客観的に描かれているのに対して、映画ではパン屋のマルタンの視点に集約した構成になっています。その辺はやはり最後のオチのためでしょうか?

原作ではジェマがイギリスに行って、そちらの話が中心になったりとか視点が移り変わるのですが、確かにあなたの指摘通り、映画ではマルタンの視点にまとめました。

というのが、映画の構成上視点をまとめないとダメだと思ったんです。
原作のような視点が分散した構成だと、グラフィック・ノベルとしては成立していても、映画としては成立しないと思いました。
それに原作者のポージー・シモンズ自身が、原作とは違った構成にした方がいいと思うと言ってくれたんです。
原作のラストはご存じですか?実はラストは映画オリジナルなんですよ。

じゃあ、ラストに向けて、監督の壮大ないたずらとして、映画が構成されているんですね?

そうね。原作の雰囲気は映画で再現していますし、キャラクターもそのまま使っています。でも映画のために新たに作ったシーンもたくさんあります。
英仏の作者で、一緒に混ぜて作ったという感じですね。

ジェマは隣人のマルタンをどう思っていたのでしょう?彼女にもマルタンに対して恋愛感情はあったと思いますか?

周囲に若い男性や魅力的な男性がいますから、ジェマはマルタンをちょっと変わった隣人としか見てなくて、マルタンに男性として意識するところまではいかないという設定です。
現実社会でも、凄く近くにいる身近な人は恋愛対象にならないですよね。

だからブラッド・ピットみたいな人ではマルタンを演じさせませんでした(笑)
ファブリス・ルキーニ自身はとても魅力的な人ですけどね。

マルタンの主観で進むお話の中で、マルタンの奥さんも息子も単なる脇役として配置されていますが、最後ではマルタンを動かす重要な役になります。脇役のキャラクターをどう設定しましたか?

脇役はすごく重要で、主要人物に光を当てるという意味で、また彼らとは違ったタイプの人間であることを示すという意味でも大事ですね。
マルタンの息子は、初登場時はゲームばっかりやってるバカな男の子に見える、全体からしたら小さな役割なんですけど、ラストのちょっとした台詞で父親に罠をかけて、マルタンを新しい文学的な妄想の世界にいざなってしまうという、重要なキャラクターになります。
息子も実はちゃんと文学も知ってるんだ、というのが見えてくるのが面白いと思います。

ジェマ・アータートンは彼女の前出演作『タマラ・ドゥルー~恋のさや当て~』2で、同じ原作者の別作品で、同じように傍観されるヒロインを演じていました。そういう意味でジェマ・アータートンを起用したのはリスクもあったと思いますが。

もちろん、ジェマ・アータートンが『タマラ・ドゥルー~恋のさや当て~』を演じていたのは知っていました。だから私もそれを意識して、最初彼女はキャスティングしないで別の女優さんを想定していました。でもなかなか思うような人が見つかりませんでした。

そんなある日、女優のイザベル・ユペール3と食事をしてる時に、「今、何をしているの?」と聞かれて「新しい映画の企画を進めているんだけれど、なかなかいい主演女優が見つからないの。」と『ボヴァリー夫人とパン屋』のヒロイン、ジェマの話を話したんです。

するとイザベルが「あ、それなら昨日、ピッタリの女優と会ったわよ」と。
それがジェマでした。

イザベルは「ジェマ・アータートンが部屋に現れた途端、周りの男性たちにどういう効果を表すか」を教えてくれました(笑)実際ジェマにあった瞬間に「あ、この人だ」と思って決めました。

監督がティーンの頃はどういう映画を観ていましたか?

ティーンの頃、私はポルトガルのリスボンに暮らしていたんです。ダンスばかりしていました。そんなに映画に興味がなくて、ルイ・ド・フュネス 4とか普通にコメディなどを楽しく観ていましたね。パリに戻ってきてから、小津映画やベルイマンなど芸術的な映画を沢山観るようになりました。

もし監督が17、18歳のティーン向け映画を撮れと言われたらどういうのを撮りますか?

17歳、18歳なら、もう普通に大人だと思いますよ。だからもしそういう年齢の人たちに向けて映画を撮れと言われたら、普通に大人に向けて作るのと同じセクシャルな内容を扱ったものを作りますね。

(と質問に対して否定的に答えたと思ったら)

でも、まだセクシーな児童向け映画の注文は受けたことがないわね(笑)

と最後に、自身をパロディー化したオチを付けて笑わせてくれる、とても知的でチャーミングなアンヌ監督でした。

映画感想:物語全てが濃厚で華麗な”前フリ”の『ボヴァリー夫人とパン屋』

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  1. フランス語で「吸う」という言葉はセックスでよく使われる言葉。 []
  2. 『ボヴァリー夫人とパン屋』原作者ポーリー・シモンズのグラフィック・ノベル原作のイギリス映画。イギリスの文豪トマス・ハーディの『遥かに狂乱の群を離れて』を元ネタにして、ジェマ・アータートンは整形して美人になって田舎に戻ってきた美女を演じています。 []
  3. フランスを代表する女優。『間奏曲はパリで』でヒロインを演じていました。 []
  4. フランスの有名な喜劇俳優。60年代〜80年代まで多くのコメディ映画に出演し人気を博した。 []

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